これまで扱ってきた推薦入学のテーマに沿った研究としては、以前収集した質問紙調査のデータの再分析を行い、それを『進路指導研究』の論文に著した。また近年の教育社会学の動向と、政策科学化に絡む問題点について、『教育社会学研究』に論文を発表した。筆者の研究は教育政策や教育改革に絡むものであるが、通常社会学においては客観性が求められるため、フィールドや現実の政策提言と、研究者の立場や距離感が問われることが多い。特に近年は学力問題に典型的に見られるように、教育社会学者の政策に関わる発言が非常に多くなっている。こうした動向を基本的には望ましいと考えているが、一方で教育社会学者の出した知見が社会に及ぼす影響や、データの処理の方法は慎重であるべきであるという提言を行った。 一方、実際の教育政策のアジェンダ・セッティングや教育改革の普及過程についての研究も進んでいる。これらの成果については、現在投稿審査中または3月末に投稿する予定となっている。具体的には、東京近郊の自治体の公立学校の小学生高学年と中学生全員と、その保護者対象に質問紙調査を実施し、教育改革の支持基盤がどの層に広がっているのか、換言すれば教育改革は「誰の」声を反映して実施されているのかを調査した。それによれば、教育改革への関心は、階層の高い人が多く、しかもメディアを媒介として教育問題に接している人々であることがわかり、そうでない人はそもそも教育問題への関心度も低く、賛成や反対の意見も明瞭でないことがわかった。以上より、「市民」の声や要求としての教育政策の実施というときの「市民」の意味であり、意見の反映されない人々の立場をどう組み込んで政策に活かすのか、市民参加という形式だけに囚われた場合の問題点を提起することになった。
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