研究概要 |
未解明である海洋性藍藻類のシデロフォアの化学性状を明らかにするために、昨年度、無菌の海洋藍藻株のシデロフォア生産能をスクリーニングした結果、単細胞性藍藻Synechococcus sp.PCC7002の鉄欠乏培地が顕著な鉄キレート活性を示したので、本年度はシデロファオの精製と構造解析を行った。ESI-MSで分子量を分析した結果、これらの物質の分子量は504(1),532(2),560(3)であり、各分子量は28mass unitずつ増加することが判明した。最も収量のあった3を、2次元NMRによる構造解析を行った結果、本物質はdihydroxamate-citrate typeのシデロフォアであることが明らかになった。さらにNMRスペクトルは飽和脂肪鎖の存在を示したため、本物質を過ヨウ素酸で酸化し、加水分解後にGC-MS分析に付したところ、C12の飽和脂肪酸の存在を確認した。結果的に本物質は既知のシデロフォアであるschizokinenの末端の一つのアセチル基がC12飽和脂肪酸に置換したものと判明した。他の2つについても脂肪酸分析を行った結果、2はC10を、1はC8の飽和脂肪酸を持つことが明らかとなった。なお3については全合成を行いその構造を確認した。他の海洋細菌由来のシデロフォアと同様に、脂肪鎖をもつことで膜の表面への親和性を高め海水中への拡散を防いでいると推察される。これらは海洋藍藻類由来のシデロフォアとしては初の構造学的報告である。
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