(1)海外渡航費をもちいて、南アフリカ共和国カラハリ砂漠において、野生ミーアキャットSuricata suricattaの野外研究を行った。従来、ミーアキャットにおいて研究されることがなかった社会行動(特に順位関係、攻撃行動、葛藤解決行動、毛づくろい行動、親和行動など)に関して、詳細な行動観察と分析を行った。また、優位メスが下位メスの繁殖を妨げる戦略、群れサイズを調整するメカニズムに関して、繁殖、社会行動の観点から分析した。 (2)上野動物園と野毛山動物園で飼育されているアビシニアコロブスColobus guerezaを対象に、抱きつき行動を研究した。この種において、抱きつき行動は個体間の社会関係を調整する「挨拶」行動である可能性を検証した。その結果、抱きつき行動は年少行動から年長行動に対して行われ、また、抱きつき行動には葛藤状態を調整する機能があることが示唆された。さらに、抱きつき行動の分布には、群れによって質的な違いがあること分かった。 (3)ニホンザルを対象に、群れ構成と実効性比のバリエーションを検討した。その際、種間比較法を応用した分析を行った結果、オトナオスの分布がオトナメスの分布によってつよく影響されることが分かった。また、オトナオスの数は、群れの繁殖成功とは関係していないことが分かった。 (4)都内の保育園において、人間の幼児を対象に、攻撃交渉と向社会行動の発達を、行動観察法によって縦断的に研究した。その結果、幼児は成長するごとに、社会行動を構成する要素、また社会行動の背景にある社会的認知能力が複雑になっていくことを明らかにした。
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