今年度は、法的親子関係は生物学的親子関係に常に一致させなくてはならないのかという問題意識のもと、母子関係定立と父子関係定立とにおいて、親の「意思」の介在可能性に差異があることの合理性、欧米から直輸入された養子・実子という二種類の親子類型の存在意義と区分の妥当性を再検討すべく、二つの方向から研究を進めた。 第一に、欧米とは異なる日本国民の親子関係をめぐる意識、背景に根差した法制度を構築する前提として、人工生殖を中心とした意識調査の結果を広く収集した。海外における類似の調査の結果も可能な限り入手した(計10件)。さらに、日本親子関係法に関する近世以前の資料及び明治民法典起草時の資料の整理・分析を行った。既存の歴史学・法史学の研究を参照すると共に、近世の家訓集等などに手がかりを求め、当時の実子・養子の区別に対する人々の考え方、規範の一端を知ることができた。仏独法継受の際の議論からは、起草者が外国法の何を参考にし、また何を理解しなかったのかが明らかになった。この法継受の方法が後の裁判例における親子関係定立に与えた影響を探るために、未紹介裁判例も含む裁判例の分析に着手した。 第二に、法的親子関係と生物学的親子関係との分離を考える場合に避けて通れない、子どもの知る権利との関係に関する議論及び問題点の整理を試みた。その際、生物学的母の意思を尊重しながら、その意思に反しない範囲の情報を伝達する仕組みを確立して、一定限度で子どもの出自を知る権利を認める立法を2002年に行ったフランスの議論を特に参考にした。併せて、イギリス、ドイツ、アメリカにおける人工生殖子や非嫡出子の知る権利をめぐる議論との比較検討を行い、出生に関する情報一元管理機関のあり方などの課題をまとめた。
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