研究概要 |
本研究は、アメリカ占領下の日本における女性労働改革を、保護と平等をめぐる論争を中心に検討することによって、占領下の女性解放政策の歴史的意義を検討することを目的としている。具体的には、労働基準法(法律)、労働省婦人少年局(制度)、労働組合婦人部(運動)の三側面に対する連合国最高司令官総司令部(General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers, GHQ/SCAP)の政策とそれに対する日本側の対応を検討する。それは、女性労働者の保護と平等の問題を総括的に検討するためには、法律が規定し制度が支えそして運動が求めたものを分析する必要があるからである。 このうち、本年度は、制度の側面、すなわち労働省婦人少年局の設立過程を実証的に裏付ける研究に焦点を当てた。まず、国立国会図書館憲政資料室所収のGHQ/SCAP文書資料を収集・調査し、労働省の設置と婦人少年局の新設に関して、GHQ/SCAPが日本政府に与えた具体的な指示やGHQ/SCAP内部での議論や論争の内容を明らかにして分析した。続いて、このようなGHQ/SCAPの議論や日本政府に対する指示の背景にあった、本国米国の労働省婦人局の政策立案や渉外関係を、米国メリーランド州にある国立公文書館において収集した。実際、GHQ/SCAPのスタッフは、日本で労働省婦人少年局に関する政策を立案するにあたって、米国の労働省婦人局をモデルにしていた。主にRG86を調査した結果、GHQ/SCAPスタッフだけでなく日本側の女性指導者たちとの往復書簡や日本人女性労働者に米国での労働教育の機会を与えるプログラムの実施などが行われていたことを明らかにした。また、日本政府の側の対応を分析するため、国会図書館憲政資料室所蔵の佐藤達夫文書のうち「労働省設置関係資料」および、国立公文書館つくば分館所蔵の労働省労働基準局「労働法制定関係」(平12厚労-0032〜42の11分冊)を収集した。その結果、日本政府の中では消極的だった内閣に対して厚生省は労働省設置に意欲的であったことや労務法制審議会での具体的な議論の様子を明らかにすることができた。
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