本研究の目的は、マラリア原虫にとって必須の細胞内小器官である色素体「アピコプラスト」について、その機能と制御を担うタンパク質を網羅的に把握し、その中からアピコプラストの未知機能を探索することである。 熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparumの全推定タンパク質配列を、すでに全ゲノム解析が終了した数種の真核生物および、単細胞の原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeのゲノム(松崎他・印刷中)と比較しカタログ化した。特に未知機能を探索する上で重要と思われる、紅藻と1対1関係にある機能不明遺伝子は約120あった。 研究開始時点では候補遺伝子に対して定量的RT-PCR法による発現解析を行うことを予定していたが、8月にカルフォルニア大のグループが大規模なマイクロアレイ解析のデータを公開したため、このデータを独自に解析して候補遺伝子のスクリーニングにも利用することにした。アピコプラストと関連すると思われる既知のタンパク質は、主に2種類の特徴的な発現パターンを示すことが明らかになった。一方はカルフォルニア大のグループが指摘しているアピコプラストDNAの複製と同期したパターンであったが、もう一方は赤血球侵入後にピークを持つ新規パターンであった。これら2パターンと同様のパターンを示す遺伝子を同様にカタログ化した。 現時点では以上の知見を元に候補遺伝子の選定を行っており次年度に機能解析に進む予定である。 またアピコプラストタンパク質のマーカーとして利用するため、アピコプラストのDNA結合タンパク質の抗体を作製している。このタンパク質は真正細菌のDNA結合タンパク質と類似の配列をもち、紅藻とマラリア原虫類数種とで共通で単系統を成し、アピコプラスト局在が示唆されている。今後アピコプラストへの局在を検証し、候補遺伝子の解析に用いる予定である。
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