研究概要 |
哺乳類の性分化過程において、Sry,Sox9といったDNAに結し、クロマチン構造を変化させる遺伝子が、胎仔期の僅かな時間に発現することで精巣分化が誘導されるが、これらの遺伝子の標的は10年経った現在も不明瞭であった。このようなクロマチンを介した遺伝子発現制御は近年、エピジェネティック制御といわれ、多くの遺伝子発現制御のみならず、発生・細胞分化、免疫、癌化等に関わっている事が明らかとなっていた。そこで、DNAのメチル化や、ヒストンのアセチル化といったエピジェネティック制御が性分化過程において関与するか否かを、器官培養系を用い解析した。 その結果、精巣分化過程において、ヒストンの脱アセチル化酵素阻害剤であるTrichostatin Aは精巣分化自体には影響を与えないが、構成細胞の増殖や分化に影響を与えている事が明らかとなった。以上の結果から、ヒストンのアセチル化は性分化自体より、生殖腺の発生・成長などに関与している事が示唆された。一方、DNAのメチル化の阻害剤である5-Azacytidineは、精細管形成を阻害し、オスの性分化を特異的に抑制した。DNAのメチル化パターンの変化は、セルトリ細胞の分化や、ライディッヒ細胞の分化自体には影響を与えないが、その細胞の局在には異常が認められた。そこで、これらの細胞の配置に深く関わっている細胞外基質の形成に異常があると考え、laminin-1や、Collagenの遺伝子をWhole mount in situ hybridization法によって明らかにした。その結果、Col9a2,3の遺伝子発現が抑制されている事が明らかとなり、性分化過程にエピジェネティックな制御が関与することを世界で初めて証明した。
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