本年度は棘皮動物の神経形成過程の進化に重点をおいて研究を行った。トリノアシ、ニッポンウミシダ、マナマコを用いて、これまでの免疫組織化学だけでなく新たに透過型電子顕微鏡観察も取り入れ、発生過程を通じた神経系の挙動の網羅的な記載、比較検討を行った。棘皮動物のディプリュールラ型幼生において、幼生神経節が一つであることが祖先形であることを強く支持する結果が得られた。また、トリノアシのドリオラリア幼生の上皮神経網が半索動物等の成体の上皮神経網と相同な可能性が考えられ、新口動物全体の体制進化を考察する上で重要な指標となる。この仮説の検証のため、珍渦虫の研究も始めた。また、幼生神経系は発生の進行とともに消失し、成体神経系はそれとは独立に形成された。このことは棘皮動物共通祖先でも幼生神経系と成体神経系が独立に形成されたことを示唆する。これらの結果、考察をまとめた論文2編を現在執筆中である。 そして、(1)ウミシダ類は有柄ウミユリ類の茎部の成長がある段階で停止してしまう変異によって生じた、(2)址板内の反口神経節が有柄ウミユリ類の体制の維持に必須である、(3)遊在類はその神経節を放棄することで多種多様な体制へ進化した、という3つの重要な仮説を提示した有柄ウミユリ類の茎部再生に関する論文が掲載された。 また、今年度後半はスウェーデンのクリスティーネバーグ臨海実験所に赴き珍渦虫の研究を開始した。珍渦虫はその単純な体制から系統的位置が長く謎であったが、200$年に棘皮動物と近縁な新口動物であることが報告された。その系統的位置が確定するにはさらなる研究が必要なものの、私はすでに珍渦虫が新口動物である新たな証拠を得て、現在投稿中である。また、その長期飼育法も確立済みであり、今後は珍渦虫の構造、発生過程、遺伝子発現パターンなどをトリノアシと比較することで、棘皮動物、新口動物の共通祖先や進化過程を解明する予定である。
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