研究概要 |
本年度においては,超新星ニュートリノに関する研究を集中的に行ってきた.大まかには以下のように分類できる.すなわち,1.超新星背景ニュートリノ,2.ニュートリノの磁気モーメントと超新星中のフレーバー転換,3.超新星コアでの相互作用と,非対称ニュートリノ放射,の三つである.これらに関して以下順番に報告を行う. 1.まず,超新星背景ニュートリノ(supernova relic neutrino;以下SRN),についてである.これは,過去の超新星爆発によって放出されたニュートリノのdiffuseな背景放射のことを意味し,それを観測することにより,宇宙素粒子物理学に対して多大なる示唆を与えることが期待されている.(1)まず,さまざまなニュートリノ振動モデルに対してSRNのフラックスの評価を与えた(Ando & Sato 2003a).また,最近のSuper-Kamiokande(SK)によるフラックス上限値(Malek et al.2003)の再評価を,これらの振動モデルに対しても適用した.(2)次に,ニュートリノの崩壊モデル(Majoronとの相互作用によるものなど)に対する制限が,SRNの観測から得られることを始めて指摘した(Ando 2003a).現在のところ得られている,崩壊寿命に対する下限値は,太陽ニュートリノ観測を用いたものが最も強いが,今回指摘した方法では,原理的にはその十数桁強い制限をつけることが可能である.(3)SRNの観測が,宇宙の星形成史に対する示唆を与えると期待されているが,将来観測からどの程度までの情報を引き出せるかという議論をMonte Carloシミュレーションを用いて行った(Ando 2004).この結果,SKくらいの大きさの検出器で5年程度観測を行えば,30%程度の精度で星形成率のモデル化が可能であることを示した. 2.次に行ったのは,ニュートリノが磁気モーメントを持った場合に,超新星磁場との相互作用で引き起こされる共鳴的スピンフレーバー転換(resonant spin-flavor conversion;以下RSF)の研究である.RSF効果は,超新星の親星モデルに非常に敏感である.このため,Woosley, Heger & Weaver (2002)によって計算されたモデルを用い,超新星伝播中のRSF転換と通常のMSW物質転換の計算を行った(Ando & Sato 2003b).また,ニュートリノの質量階層性への依存性に関する包括的な研究も行った(Ando & Sato 2003c). 3.現在の宇宙物理学の問題のひとつとして,パルサーが大きな固有速度を持っているということがある.これは超新星爆発が非対称に起きるためであるという考え方が有力であるが,その詳しいメカニズムはいまだ謎のままである.今回はニュートリノに着目して研究を行った.従来の研究では,電子ニュートリノが非対称ニュートリノ放射に主に寄与するとされ,それ以外のフレーバーはあまり考えられてこなかった.しかし,1次の補正項まで考慮に入れた結果,非電子ニュートリノによる寄与は,場合によっては電子ニュートリノから来る寄与と同じくらいになる可能性があるという指摘を行った(Ando 2003b).
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