結晶粒界に着目したセメント系高靭性材料の開発に関する研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03J11639
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 田中 泰司 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
• キーワード: 膨張材 / 付着 / アーチ機構 / アルカリ骨材反応

研究概要

セメントに混入する混和材として膨張材を選定し、万能粉砕機を用いて任意粒度に材料を粉砕し、粒度調整を行っている。使用している粉砕機の能力が小さいこと、スクリーニングに手間がかかるために、十分量の試料が得られていない状況である。試料採取後、セメントペーストを中心に混和材置換量を主パラメータとして曲げ靭性試験を行い、評価していく予定である。
一方で、膨張材自体の特性を把握する目的で膨張材を添加したコンクリート中に埋め込まれた異形鉄筋の引き抜き試験を行い、低水結合材比のケースも含めて網羅的に膨張コンクリートの付着特性を把握した。その結果、膨張コンクリートの付着特性が普通コンクリートと同等であること、置換量が大きい場合に初期の付着特性が多少劣化するものの、終局段階ではむしろ向上する傾向にあることが示された。また、付着特性には鉄筋の寸法依存性が見受けられ、これはコンクグリート中に含まれる最大骨材寸法と連関しているものと思われる。引き抜き試験の場合、コンクリート中に圧縮の応力場が発生していることから、付着特性自体はコンクリートの圧縮強度と強く連関しすぎているため、膨張材の有無によらず、違いが出ないものと思われる。現在は、コンクリートが引張場となるような両引き試験による付着特性の把握を行っている。両引き試験の場合、コンクリートには複数本のひび割れが導入されるが、膨張材を添加した場合には、コンクリートの伸び能力が高まるので、コンクリートが十分に伸びることで、6び割れ幅とひび割れ間隔の両方が小さくなる。この特性を生かして、コンクリート材料単体によるのではなく、鉄筋を含めてまた、鉄筋を有効に利用することで結果としてコンクリートの靭性を向上させる手法を模索中である。
また、鉄筋コンクリートという部材レベルでの部材靭性の向上手法の研究も同時に行っている。具体的な方法として、部材内にスリットを入れることで鉄筋コンクリート内に導入されるひび割れの経路を操作、迂回させることで斜めひび割れ後に形成されるアーチ機構をより有効に発揮させる手法である。このプレートを埋め込んだ長さ2メートルほどの梁試験体を今年度は12本作成し、単純支持条件下で試験を行っている。検討の結果、軸方向にプレートを配置した場合の部材耐力算定式を得るにいたり、その研究成果について論文を2箇所に提出中である。
セメント硬化体というミクロなレベル、鉄筋とコンクリートの複合材料としてのメゾレベル、部材耐荷システムというマクロなレベルの3方向それぞれから靭性と強度の向上手法および評価システムの提案を行うべく、研究を展開している。
これらとは別に、アルカリ骨材反応によって、実構造物の鉄筋が破断するという問題のメカニズム解明を目標とした実験を遂行中である。アルカリ骨材反応が膨張反応であるため、上記のような膨張コンクリートと挙動がよく似ていることから、これまでに膨張コンクリートの研究を通して得た知見を生かして、特に構造解析的に、この問題の解明を行っている。

研究成果

• [文献書誌] 田中泰司, 吉田聖, 岸利治: "低応力場における膨張コンクリートの付着性状"土木学会第58回年次学術講演会講演概要集. V-258. 513-514 (2003)
• [文献書誌] 吉田聖, 田中泰司, 岸利治, 勝木太: "膨張コンクリートと鉄筋の付着特性に関する研究"土木学会第58回年次学術講演会講演概要集. V-258. 515-516 (2003)
• [文献書誌] Yasushi TANAKA, Toshiharu KISHI, Koichi MAEKAWA: "DEVELOPMENT OF SMEARED CRACK INDUCING DEVICE AND ITS MECHANISM IN RC MEMBERS"THE NINTH EAST ASIA-PACIFIC CONFERENCE ON STRUCTURAL ENGINEERING AND CONSTRUCTION Proceedings. RCS103-RCS110 (2003)
• [文献書誌] 田中泰司, 吉田聖, 岸利治: "膨張材を添加したコンクリートに埋め込まれた異形鉄筋の付着特性"膨張コンクリートによる構造物の高機能化/高耐久化に関するシンポジウム委員会報告書・論文集. 41-46 (2003)