エナミドは、求電子剤として多く用いられている基質であるが、求核剤としてはその反応性の低さのためほとんど用いられている例がない。私は今年度エナミドの触媒的不斉付加反応について研究を行った。 求電子剤としては比較的反応性の高いエチルグリオキシレート由来のイミンを用い、種々のルイス酸触媒存在下エナミドの付加反応を検討した。その結果、二価の銅塩とキラルジアミンリガンドから調製される錯体を触媒として用いると、高い収率、高いエナンチオ選択性で反応が進行することを見い出した。この反応においての特徴は、初期生成物が比較的反応性の高いアシルイミン体であり、さらに還元操作を行い、対応するアミド体へと容易に導くことができる点が挙げられる。また、種々の芳香族ケトン由来のエナミドや脂肪族ケトン由来のエナミドを用いた場合にも反応は円滑に進行し、広い基質一般性を示すことができた。さらに、用いた触媒についても詳しい検討を行い、ジアミンリガンドと銅が2対1の比で構成される錯体のX線結晶構造解析に成功した。このことからエナンチオ選択性の発現機構を解明することができた。 さらに現在、イミンの代わりにアルデヒド、特にエチルグリオキシレートを用いてエナミドの付加反応を検討している。その中で、イミンを用いた際に有効であった銅触媒がこの反応においては有効に働かないこと、一価の銅塩とジイミンリガンドからなる錯体が有効に働き、高い収率、高いエナンチオ選択性を与えることを見い出した。イミンの際と同様、初期生成物はアシルイミン体であり、続く還元操作により高いジアステレオ選択性をもって対応するβ-イミノアルコールを得ることができた。現在さらに詳細な検討を行っている。
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