現在筆者は、エナミド、またはエンカルバメートを求核剤として用いる反応を検討した。エナミンが反応性の高い求核剤として用いられている一方で、エナミド、エンカルバメートを求核剤として用いる例はこれまでほとんど知られていない。前年度において私は、エンカルバメートのN-アシルイミノエステルへの触媒的不斉付加反応を報告している。今年度は、求電子剤としてエチルグリオキシレートを用いる反応を検討した。 エンカルバメートはアセトフェノン由来のものを用い、種々の金属錯体触媒存在下、反応を試みたところ、一価の銅塩とシクロヘキサンジアミン由来のリガンドから形成される錯体を用いた時に、非常に高いエナンチオ選択性が発現することを見い出した。N-アシルイミノエステルへの付加反応の際良好に機能した二価の銅塩とジアミンリガンドから調製される錯体を用いても中程度の選択性にとどまった。さらに、プロピオフェノン由来のエンカルバメートを用いると、エステルのβ位にもさらに不斉点が形成されるが、その時のジアステレオ選択性が非常に高いことも分かった。ジアステレオ選択性は基質特異的であり、E体のエンカルバメートからはanti体の、Z体のエンカルバメートからはsyn体の生成物が得られることを見い出した。また、それぞれの主生成物のエナンチオ選択性は98%eeと非常に高いものだった。 本反応の反応機構は、環状遷移状態を経由する[4+2]型反応であると考えられ、エンカーバメートの窒素原子上のプロトンがアルデヒドのカルボニル基と相互作用することで反応の促進、さらには遷移状態の固定による選択性の向上に寄与していると考えている。今後、さらに他の求電子剤を用いることでエンカーバメートの求核剤としての可能性を広げていく予定である。
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