シナプスの形成には、神経細胞(プレ)とその標的細胞(ポスト)間の綿密な相互作用が重要であると示唆されているが、その内、ポストがプレに働きかける機構に関しては未知な部分が多い。私は、ショウジョウバエ幼虫の神経-筋結合系を用いて、ポスト内の酵素CaMKIIがプレの機能と形態を逆行的に調節することを報告してきた。CaMKIIの下流に位置する逆行性因子を同定するために、本年度はまず、様々な遺伝子の機能喪失バックグラウンドで活性型CaMKIIを発現する系統を樹立した。続いて、それら系統のシナプスの形態解析を進めている。 一方、CaMKIIの上流因子であるカルシウムが、シナプス形成期にポスト内でどのような挙動を示すかを調べるため、カルシウム指示薬を用いたライブイメージングを行った。CCCDカメラ、Ar-Krレーザー、Nipkow式共焦点ユニットから成り、高解像度・全画素読み出しでありながら、高速な画像取得が可能な測定系を用いた。タイムラグ無しに画像取得ができるよう、系の性能を向上させた。特に、シナプス形成期に筋肉細胞から伸展されるmyopodiaという細かな突起内に注目してイメージングを実行した。ポスト内のカルシウム濃度をキレート剤で減少させると、myopodiaの挙動が変化したので、カルシウムが何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。現在、プレとポストの接触前後にmyopodiaや他のポストの構造内で特徴的なカルシウム濃度変動があるかどうか、データ解析を行うと共に更なる測定を続けている。また、この時期にポスト内でカルシウム濃度変化を引き起こす因子として、神経伝達物質が働いている可能性を検証するために、神経伝達物質を局所部分においてのみ、パルス状に放出するシステムを構築した。
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