中米コスタリカ共和国サンタ・ロサ国立公園に平成15年7月9-15日の日程で滞在し、そこに棲息する中米クモザル(Ateles geoffroyi)1群、ノドジロオマキザル(Cebus capucinus)2群を対象に糞の採集を行った。その結果、クモザルでは全25個体中10個体からサンプルを採取し、そのうち5個体について赤緑視物質遺伝子の遺伝子型から色覚型を判定することができた。オマキザルでは1群からは全18個体中6個体からサンプル採取し、そのうち3個体で色覚型を確定した。オマキザルのもう1群では全18個体中9個体からサンプル採取し、そのうち6個体で色覚型を確定した。これらにより、初めて野生の新世界ザルで色覚型を判定し、野生集団に実際に色覚多型が存在することを明らかにした。さらにクモザルでは赤緑視物質遺伝子の対立遺伝子が2種類であるのに対し、オマキザルでは3種類であることを明らかにした。また、オマキザルの2群間で対立遺伝子頻度構成が著しく異なることを明らかにした。霊長類赤緑視物質の吸収波長はアミノ酸の180、277、285番日の残基により決定されること(3サイトルール)を既に私たちの研究室が明らかにしているが、オマキザルの3種類の対立遺伝子では3サイトは全てが新世界ザルで既知の組み合わせであったのに対し、クモザルの対立遺伝子の1つ(黄型)は従来知られていない新規の組み合わせであった。来年度は集団の全個体について色覚型の確定を行い、また、各視物質の実際の吸収光波長を視物質再構成によって明らかにし、それらをもとに色覚型と行動、そして光環境との関連について検討を重ねる。
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