研究課題
多くの新世界ザルは赤-緑視物質遺伝子の多型に由来する色覚の種内変異を有するとされており、色覚の違いに関連した行動の違いを種内で比較することができるため、色覚の意義、色覚進化の過程を探索する格好の研究対象である。しかし、野生集団における色覚型多型の有無および頻度を調べた研究は稀有であった。私はコスタリカ共和国サンタロサ国立公園に生息する野生オマキザル(Cebus capucinus)2群(24個体と19個体)とクモザル(Ateles geoffroyi)1群(27個体)を対象に糞を採集し赤-緑視物質遺伝子型の判定を行った。さらに視物質をそれぞれの遺伝子型について再構成しそれらの最大吸収波長(λmax)をin vitroで測定した。オマキザルでは3つの対立遺伝子が報告されているが本研究でもこれら全てが同定され、λmaxもアミノ酸配列からの推定値と一致した。ただし1群ではそれら全ての対立遺伝子が同定され3色型と2色型が混在するのに対し、1群では1個体を除き全個体が同一の遺伝子を持ち2色型であった。この群れでは長期行動観察により1頭の優位オスが長期間交尾独占をしていることが明らかとなっており、色覚変異の低下はそれによる近親婚効果であると考えられた。クモザルではこれまでの電気生理学手法による報告に一致する2つ対立遺伝子が同定されたが視物質再構成の結果これらのλmaxに重要な影響を与えるアミノ酸サイトは多くの哺乳類の視物質とは異なることが明らかになった。また2つの対立遺伝子の頻度はほぼ同等であった。これらの結果、小集団において色覚多型の頻度には顕著な集団差が存在することを示すとともに、色覚多様性維持に個体移出入が重要であることを示した。
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American Journal of Primatology (印刷中)
Vision Research 44
ページ: 2225-2231