研究課題
新世界ザルは赤-緑視物質遺伝子を多型を有し同一種内に2色型と3色型色覚個体が混在するとされているが自然集団における多型の有無および頻度の知見は乏しかった。前年度までにコスタリカ共和国サンタロサ国立公園に生息する野生オマキザル(Cebus capucinus)2群とクモザル(Ateles geoffroyi)1群を対象に糞を採集し赤-緑視物質遺伝子型の判定を行い色覚の多様性が自然集団に実在することを明らかにした。オマキザルでは3つの対立遺伝子が、クモザルでは2つの対立遺伝子が確認された。各対立遺伝子より視物質を再構成し吸収波長特性を測定した結果、オマキザルはそれぞれ532nm、543nm、561nmに、クモザルでは538nmと553nmに最大吸収波長(λmax)を有することが明らかとなった。また全群において長波長側にλmaxを持つ対立遺伝子の頻度が有意に高かった。さらにクモザルの2つの対立遺伝子はこれまでに報告されていないものであり、他の新世界ザルの赤-緑視物質とは異なる吸収波長制御の分子メカニズムを持つことが明らかになった。本年度は色覚型が判定されたクモザル1群約20頭を対象とし各個体の採食行動を詳細に観察した。同時に採食物の反射光および環境光の測定を調査地にて行い、再構成実験で得られた視物質の吸収波長カーブを用いて各視物質がある光環境下である対象物を見るときに得る光量を算出しクモザルの色覚をモデル化した。その結果、クモザルが主に採食を行う葉で覆われた木の下では色みによる果実と葉、熟した果実と未熟な果実の判別が難しくなることが明らかとなった。また、熟した果実と熟していない果実の色みによるコントラストと明度の違いによるコントラストを定量化し採食行動の観察結果との相関を調べたところ、明度によるコントラストが色みよりも果実を見分けるのに重要な要素であることが明らかとなった。
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American Journal of Primatology 67
ページ: 447-461
ページ: 425-436
ページ: 471-485