初年度は、種分化様式を明らかにするために欠かせない、詳細な変異の検出用マーカーの開発に重点を置いた研究を行った。具体的には、両性遺伝の核DNAのgapCpイントロン領域に、コケシノブ科全体で使用可能な複数組のプライマーを開発した。いっそう正確な個体レベルでの識別を目指し、現在SSRマーカーの開発を行っている過程にある。 コケシノブ科に見られる着生と地上生という2つの比較すべき生活型のうち、本年度は特に地上生種の種分化様式に重点を置いた材料収集及び予備的な解析を行った。11月に地上生種の豊富な台湾南部で現地調査を実施し、特にソテツホラゴケ群の集団サンプリングを実施した。国内の比較材料としては全国に広く分布が見られるハイホラゴケ複合体の材料収集を積極的に行い、前述のプライマーを用いたPCR-SSCP解析・フローサイトーメーターを用いた倍数性測定を効率的に進展させた。その結果、地上生種であるハイホラゴケ複合体に見られる繁殖戦略・種分化様式の傾向を明らかにすることができた。具体的には、1)多くの地域集団は異なる遺伝的構成(異なる雑種構成)を持つ複数の個体を含み、純系の個体はごく少数である、2)核DNAに見られる変異には地理的な偏りは少なく、ほとんどの変異が分布域のほぼ全体で共有されている、といったデータが得られた。前者は地上生種の自配受精が稀であることを示唆する結果であり、後者は地上生種が長距離拡散の能力を持ち得ることを示唆するものであると考えられる。また、遺伝的距離が大きく離れた種間(ハイホラゴケ-オオハイホラゴケ)での複倍数体形成が示されたことで、地上生種の緩やかな遺伝的隔離の傾向も示唆された。
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