(1)独立配偶体が引き起こす種分化 昨年度までの研究によって示唆された「独立配偶体による雑種形成」現象を検証するため、静岡県下田市の石切り場跡に形成されたハイホラゴケ雑種胞子体集団と周辺に生育する配偶体集団を用いた詳細な解析を行った。 その結果、本集団は胞子体レベルでは雑種2倍体、雑種3倍体、雑種起源4倍体の3系統を含むことが明らかになったが、有性生殖型2倍体は含まれなかった。一方、配偶体集団のゲノム構成・倍数性を、1cm四方単位のサンプリングによって解析した結果、狭い範囲内で高度な遺伝的多様性を持つことが示唆された。特に雑種2倍体の近傍から発見された半数性配偶体は、「親」に相当する2倍性胞子体から200km以上離れて生育しており、この「独立配偶体」が雑種胞子体集団の形成に関与していることが強く示唆された。 (2)シダ植物の生活環特性と種分化様式 神奈川県三浦半島周辺に生育するハイホラゴケ胞子体を詳細に調査した結果、この地域特産のゲノム構成が多数存在することが明らかになった。中でもヒメハイホラゴケとオオハイホラゴケの雑種起源4倍体の存在は注目に値するものであると考えられた。何故ならば親にあたる2つの2倍体種の分布は、前者が日本海側多雪地帯、後者が太平洋岸暖地と全く異なっており、分布が接する地点は存在しないからである。胞子体レベルでは分布が重ならない2種の間の雑種の存在という事実は、胞子体の分布に外側は「独立配偶体」が存在することを強く示唆するものである。同時に、独立配偶体によって形成された不稔雑種は、倍数化によって稔性を回復することによって、シダ植物の倍数性の発達を伴った種分化に貢献している可能性が示唆された。
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