平成15〜16年度にかけてHer-2遺伝子の過剰発現を抑制するWrenchnololを開発した。このWrenchnololはESX(Her-2遺伝子の転写因子)の8個のアミノ酸で構成される短いα-ヘリックス(転写活性化ドメイン)の疎水性部位を模擬しているため、本年度はさらに強い生物活性を有する化合物の開発のためα-ヘリックスの親水性部位の模擬をする親水性官能基を備えたレンチノロール類縁体の開発を行った。 まずwrenchnololのインドール環側へ水酸基を導入した類縁体およびアダマンタン側に水酸基を導入した類縁体をそれぞれ合成してそれらの生物活性を測定した。その結果インドール環側へ水酸基を導入した類縁体では生物活性が低下するがアダマンタン側に水酸基を導入した類縁体においては生物活性が増加することがわかった。 そこで更にアダマンタン側の別の位置へ水酸基を導入した類縁体を設計した。これら分子の合成にはprins反応やピナコールカップリング反応などを用いて行った。こうして合成した類縁体の生物活性はwrenchnololよりも増加した。 これらの結果、転写因子の転写活性化ドメインの疎水性部位と親水性部位の両方を模擬した低分子有機化合物を開発できた。これらの化合物は転写因子の転写活性化ドメインとしての機能を有しており、コアクチベータであるSur2タンパク質と強く結合することから、化学のみでなく生物学や医学など様々な分野の研究に大きく貢献することが期待される。
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