単一分子デバイスとは、2つの電極の間にフラーレンやベンゼンといった分子がひとつ挟まった構造をしており、分子接合とも呼ばれる。その電気伝導には、分子の軽さと電極-分子間結合の柔らかさとが反映されると考えられ、分子が電極間で機械的に振動することにより電極間のキャリア輸送が促されるという伝導機構が理論的に提案されている(シャトル機構)。2000年頃からこのような分子接合の伝導特性を測定した実験的研究が報告され始め、シャトル機構によると思われる伝導特性が直流領域にて観察されている。しかしながら、従来の研究は直流領域での測定に限られており、伝導メカニズムに関する考察は間接的なものにとどまっている。本研究では、新たにテラヘルツ電磁波を用いて分子接合の伝導特性をより直接的に明らかにすることを目的としている。 2年目までの研究実績は、(1)分子接合作製のための基礎となる極微小電極対の作製技術を習得、(2)さらに従来手法の改良と新手法の提案、の2点である。分子接合の伝導メカニズム解明のためには、再現性の良い素子の作製が必須であり、従来の作製手法を十分習得し、改良の余地のある場合は新手法を提案することが必要である。本研究では、細線に大電流を流して断線させ断線箇所を微小電極として用いる「通電断線法」、および1ミクロン程度の間隔を有する金の電極対にメッキ反応によって金を析出させ、電極間隔を原子スケールで狭める「ナノめっき法」の2つを習得し、それぞれに対して新手法の提案を行い、作製手法の改良に成功した。 通電断線法に関する実績は国内学会に発表し、現在改良手法による分子接合作製および測定を行っている。一方、ナノめっき法に関する実績は国内および国際学会に発表し、英文学術論文に掲載された。また、東京大学学生発明コンテストにおいて優秀賞を受賞し、他の研究グループとの潜在的な共同研究、交流への橋渡しともなっている。
|