本年度の前半においては、衝撃圧縮下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の構造相転移における、転移時間を明らかにした。後半においては、過去の数年間の大型レーザー施設(大阪大学レーザー核融合研究センター)における実験データを踏まえ、600〜800万気圧の衝撃圧縮下において、ダイヤモンドに何らかの構造変化が生じる確証を得ることが出来た。さらに、現在、一昨年度より構築中の高出力ガラスレーザー装置(最大出力150J)が、完成に向けて最終段階に入りつつあり、レーザー衝撃圧縮装置としての性能評価実験を行っている。 PTFEは、ポリエチレンの水素原子を全てフッ素原子で置換した構造を持つ、結晶性の高分子であるその結晶構造は、低圧においては一定周期のらせん構造であり、高圧においては平面的なジグザグ構造である。らせん構造から平面ジグザグ構造への圧力誘起構造相転移は、以前よりアンビルセル等による静的圧縮の実験によって知られていた。本研究では、レーザー誘起衝撃圧縮法による動的圧縮過程において、時間分解ラマン分光の手法を用いて実験を行った。これによって、立ち上がり時間が数ns以下の極めて速い圧力パルスに対する、PTFEの分子構造の変化を調べた。その結果PTFEは分子量が数千以上の高分子であるのにもかかわらず、らせん構造から平面ジグザグ構造へのねじれを伴った構造相転移が、10ns以下という極めて短い時間の間に起こることが明らかとなった。この結果は、近年、パルス的な圧力や光による相転移現象の研究が行われている他の物質と比較して、その分子量や分子間相互作用の大きさと相転移時間の観点から、大変興味深い結果である。 また、600〜800万気圧の衝撃圧縮下におけるダイヤモンドの構造変化については、現在実験データの解析を進めている最中であり、本年中に研究発表を行う予定である。
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