低放射化フェライト鋼は、核融合炉環境下で14.1MeV中性子による弾き出し損傷、核変換ヘリウム生成による核変換損傷を被る。これら同時照射効果を模擬する手法としてのデュアルイオン照射法は、条件を任意に高精度に制御可能であることから、幅広い中性子照射効果の研究には有力な手法である。現在、ヘリウム脆化・硬化についての詳細な理解は得られておらず、その機構の解明が急務である。ここでは、重照射下での硬度変化への損傷組織形成の影響について検討した。特にキャビティ組織形成、転位組織の変化に注目し、硬度変化への各損傷組織因子の寄与を明らかとすることを目的とした。 透過型電子顕微鏡観察及び超微小硬度試験の結果、弾き出し損傷のみでは、マルテンサイトラス内の転位密度の上昇による僅かな照射硬化は確認されるものの、ラス境界の回復に挙げられる組織の回復等、強度特性を劣化させるような組織変化は確認されず、優れた組織安定性を示すことが明らかとなった。しかし、420℃の低温側では、ヘリウムはマルテンサイトラス内の転位組織を微細化すること、マルテンサイトラス境界の回復を促進すること、その結果、著しい硬度上昇を引き起こすことが明らかとなった。また、470℃以上の高温側では、ヘリウムは照射によって誘起されるキャビティ核生成を促進するが、転位組織の微細化へは寄与しないことが明らかとなった。その転位組織は、線状のものが低密度に形成したものであり、照射による硬度上昇は殆ど確認されなかった。以上の結果から、核分裂炉等ヘリウムの生成が少ない照射環境下では、優れた強度特性及び組織安定性が期待されるが、核融合炉等ヘリウムの生成が多い照射条件において、低温側では、著しい照射硬化を引き起こすこと、また、高温側では、キャビティ形成によるスウェリングにより構造材としての寸法安定性に問題が生じることが予測された。
|