研究概要 |
本年度はまず、本研究を進める上で必須のCOEベクターの構築を行った。COEベクターはこれ一つを細胞に導入しただけで遺伝子の誘導を誘導剤(テトラサイクリン)添加により自由にオンできるように設計した。そのため通常の蛋白質誘導系に用いる2つのベクターから必要な部分を制限酵素により切り出し、連結させた。具体的には、テトラサイクリンと結合する蛋白質を発現するべクダー(pcDNA6/TR)から、テトラサイクリン結合白質をコードする部分およびそのプロモーター配列、ポリA配列を制限酵素Mlu I切り出し、これをやはりMlu Iで切断した遺伝子誘導ベクター(pcDNA5/TO)と連結した。その後このpcDNA5/TOのマルチクローニングサイトを制限酵素EcoR Vで切断したものにV5タグおよびヒスチジンタグをつけたp53蛋白質(p53/V5-His)をコードするcDNAを連結させ、p53発現COEベクターが完成した。本研究では、p53蛋白質のSer15,Thr18,Ser20のリン酸化がp53蛋白質の放射線照射後の蓄積に及ぼす影響を調べることが目的であるので、これら3つのリン酸化部位のアラキン置換型p53/V5-His蛋白質をコードするcDNAを連結したベクターも別に作製した。 次に上で作製したp53発現COEベクターをヒト癌細胞に導入し、正常にp53/V5-His蛋白質が発現してくるかどうかを調べた。具体的とは、ヒト肺非小細胞癌由来癌細胞H1299にp53発現ベクターをエレクトロポレーション法で導入し、10日間ハイグロマイシン含有の選択培地で培養し、クローンを数十個単離した。これらのクローンにテトラサイクリンを処理し、p53/V5-His蛋白質の発現をウエスタンブロット法にて確認した。その結果、テトラサイクリン添加によりp53/V5-His蛋白質が顕著に誘導されるクローンが複数個見つかった。これらのクローンではp53/V5-His蛋白質の発現誘導に伴い、細胞老化やアポトーシスに特徴的な形態変化が観察された。この結果を受けて、現在は野生型およびアラニン置換型p53発現COEベクターをヒト初代培養細胞に導入し、発現クローンのスクリーニングを行っている。
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