研究概要 |
本研究では,双生児法によるアプローチを用いて,自尊感情に影響する遺伝的要因と環境的要因が加齢にしたがって,これらの要因の効果がどの程度作用しているかについて検討したものである。先行研究では,自尊感情に影響を与える遺伝的要因と環境的要因の効果は,ほぼ同程度の寄与率であることが報告されている(Kamakura, et al.,2001など)。本研究では調査協力者として双生児100組(1卵性双生児:68組,2卵性双生児:32組,平均年齢:21歳程度)を対象にして2回の質問紙調査を行った。質問紙調査の間隔はおよそ1年であり,2回の縦断的調査では,100組の双生児から事前に調査の同意を得て実施した。自尊感情の発達には,安定性と変動が混在していると報告されている(Mullis, et al.,1992など)。本研究の結果では,まず自尊感情の安定性については,遺伝的要因と環境的要因がほぼ同程度に作用していることが明らかになった。つまり,自尊感情が発達過程の中で,比較的安定している特性である理由として,以下の2点が挙げられる。1)遺伝的基盤をもつ心理的形質(例えば,性格特性など)が自己の形成に関与し,結果として自尊感情の安定性に遺伝的要因が作用している。2)環境的要因の中で,比較的安定した状況(例えば,学校環境や仲間関係など)が自尊感情に作用している。また,自尊感情の変動については,主に環境的要因が作用しており,遺伝的要因は作用しないことが明らかになった。つまり,発達過程の中で,自尊感情の高低に作用するのは,例えば,個々に起きるライフイベント等といった環境的要因が影響していると推測される。今後の研究課題としては,自尊感情に作用する遺伝的要因や環境的要因を規定する諸特性((例えば,性格特性やライフイベント)について検討していくことが必要とされよう。
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