本研究は、TSEで発症経過とともに発現が著しく低下するAHSP(a-globin stabilizing protein)発現動態に基づいたBSE感染スクリーニングの間接的手法開発を目指し、その基盤となるAHSP発現変化の分子機構解明を目的としている。 1)AHSP発現変化の分子機構を明らかにするため、赤芽球系細胞モデルとしてPrP^cとAHSPの両者を発現するMEL細胞から、高率に赤芽球系に分化するサブクローンMELhide28を単離した。次に、MELhide8細胞にマウスPrP^c遺伝子を導入し、PrP^cを高率に安定発現する細胞(MELhide8-MoPrP)を作製し、PrP^<sc>感染マウス由来脳乳剤またはPrP^<sc>持続感染神経細胞株(ScN2a)存在下で培養を行い、PrP^<sc>の直接的影響を調べた。その結果、mRNAおよびタンパク質におけるAHSPの発現動態に影響は認められなかった。また同細胞を用いて、PrP^<sc>の長期的影響を調べるためPrP^<sc>感染実験を行った。その結果、MELhide8-MoPrPにPrP^<sc>の蓄積は認められなかった。このことから、AHSP発現の低下は、直接的なPrP^<sc>侵襲あるいはPrP^<sc>の赤芽球系前駆細胞への蓄積を原因として起こる現象ではないと考えられる。 2)マウスAHSP遺伝子の5'上流領域2.4kbを単離し、MELhide8細胞におけるプロモーター活性を解析した。その結果、赤芽球系分化誘導時、転写開始点の上流-120から-50bpのGATA認識配列の存在がAHSPの転写活性化に重要なことが判明した。 今後はAHSPの転写に影響を与える転写制御因子およびPrP^<sc>侵襲時に変動する液性因子(サイトカイン等)に注目して研究を進めるのに加えて、間もなく発症時期を迎える実験的に作製したPrP^<sc>感染マウスを用いて造血系への影響を詳細に調べる予定である。
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