本研究では電荷移動錯体の持つ構造や特性をいかした有機デバイスの作製を目的としている。最終的な目標は(BEDT-TTF)(F_4TCNQ)_x(TCNQ)_<1-x>膜を用いたものであるが、1年目はその基礎特性の確認を行うためにBEDT-TTFおよび(BEDT-TTF)(TCNQ)錯体について調べた。キャスト法にてBEDT-TTFおよび(BEDT-TTF)(TCNQ)錯体薄膜を形成し、電界効果素子(FET)を作製した。 まずBEDT-TTF単独膜に関しては基板上に針状の結晶が形成された、そのFET特性はpチャネル特性を示した。次に、(BEDT-TTF)(TCNQ)薄膜について調べた結果、膜の構造はやはり針状結晶が電極間を架橋するように成長しており、この素子のFET特性はn、pの両チャネルの特性(バイポーラ特性)を示した。まずドレイン電圧(V_<DS>)が正の場合、低いV_<DS>領域では電子蓄積による動作が確認でき飽和特性も現れている。また高V_<DS>領域においては電流値の急激な増加が観測された。V_<DS>が負の場合においても同様の現象が観測された。このような現象が現れた原因は、膜構造に起因すると考えている。ドナー・アクセプタの積層構造が形成されゲート電圧を印加することでドナー層に正孔(V_G<0)またはアクセプタ層に電子(V_G>0)が蓄積する。素子を流れる電流はそれらの和となるのでバイポーラ的な動作をしたものと考えている。 また、ゲート電圧(V_G)を印加しながらソース電流(I_S)の温度依存性を測定したところ特異な現象が現れた。V_G=0または負の場合には典型的な熱活性型の温度依存性を示した。一方でV_Gが正の場合では約250K付近に極大値を持つような特性が得られた。この特性は金属-絶縁体転移付近の挙動によく似ている。このことから金属-絶縁体転移温度をゲート電圧によって制御できる可能性を示した。詳細なメカニズムについては今後解析する予定である。 来年度は、上記の現象のメカニズムの解析や(BEDT-TTF)(F4TCNQ)_x(TCNQ)_(1-x)膜を用いた素子の特性評価を行う予定である。
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