私は、すばる望遠鏡の補償光学を用い近赤外線での遠方宇宙の深い撮像観測、および高赤方偏移にあるクェーサー吸収線系の対応天体の探査を行い、銀河の形成、進化に対する知見を得ようと試みた。 遠方宇宙の深撮像では、昨年度取得したデータを解析し、K'(2.12μm)〜24.7等(5σ)という、これまでよりも約1等級深い検出限界の撮像データが得られた。また、補償光学を用いたことで、星像の半値幅が0.18秒角というハッブル宇宙望遠鏡に匹敵する高い空間分解能を達成できた。この撮像データから、検出された銀河のサイズ光度関係を近傍の銀河での関係と比較した結果、銀河のサイズは遠方から近傍にかけて大きな進化はないことを明らかにした。これらの結果は、"Astrophysical Journal"に投稿し、現在審査を受けている。さらに、同じ撮像データを用いて、検出された高赤方偏移銀河の光度プロファイルのフィッティングを行い、銀河の形態分類を行った。その結果、赤方偏移が1.5以上の遠方宇宙では、近傍の楕円銀河のような中心集中度の高い光度プロファイルを持った銀河の個数密度が激減することを確認した。この結果は、銀河の進化過程に対し大きな制約を与えると考えられる。 また、私は、補償光学を用いた撮像観測により非常に遠方(z=3.911)にあるクェーサーAPM08279+5255の視線方向上にある吸収線系の対応銀河の探査を行った。その結果、z=2.974にある吸収線系の対応銀河の候補を発見した。その対応銀河はクェーサーの視線方向から約10kpcという非常に近い距離にあり、このことから吸収を起こしている中性水素ディスクのサイズは、近傍の銀河とくらべて大きく変化していないことを明らかにした。
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