本研究の目的は、補償光学という新しい技術を用いて、遠方宇宙の深く空間分解能の高い撮像観測、および高赤方偏移にあるクェーサー吸収線系の対応天体の探査を行うことで、銀河の形成・進化、とくに銀河のサイズ、形態の進化に対する観測的な知見を得ることである。 今年度は、すばる望遠鏡の補償光学(AO)、及び近赤外線撮像分光装置(IRCS)を用いたこれまでで最も深く、高い空間分解能で遠方宇宙の撮像を行う、「すばるスーパーディープフィールド」計画の初期成果として、観測、データ解析の手法、銀河計数、見かけの銀河サイズについてまとめ、査読付き論文誌に出版した。また、同じデータを用いて、銀河の光度プロファイルを、近傍の銀河の形態から得たモデル関数でフィットを行い、銀河のサイズ(有効半径)と光度の関係の赤方偏移による変化を得た。その結果、銀河の固有サイズは、赤方偏移3程度(約100億年前)までは現在と変わらず、その光度のみが進化してきたというシナリオで、観測結果をよく説明できることが分かった。これらの成果は、研究代表者の博士論文としてまとめ、提出した。 補償光学を用いたクェーサー吸収線系の対応銀河探査に関しては、昨年度までに、赤方偏移3.911にあるクェーサーAPM08279+5255の視線方向上にある吸収線系の対応銀河候補を検出し、クェーサーの視線方向からの距離が、約10kpcと非常に近いことから、吸収を起こしている中性水素ディスクのサイズは、近傍の銀河とくらべて大きく変化していないという示唆を得た。今年度は、高赤方偏移にあるクェーサー吸収線系に対応する銀河のサンプル数を増やすべく、高赤方偏移にあるマグネシウム(MgII)雲により、吸収を起こしている銀河があると考えられるQSO周りの領域の撮像観測データを解析し、対応銀河の候補天体を絞り出した。また、これらの候補銀河の赤方偏移を同定するべく、すばる望遠鏡や海外の8mクラスの望遠鏡に分光によるフォローアップ観測の提案を出した。
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