本研究では、金属ナノコンタクトにおけるコンダクタンス非線形性のメカニズム解明を自的とする。その第一歩として、金・白金に加え、報告例のない銀や銅を試料とし、不純物や物質による非線形性への影響について調べた。実験は、大気圧または超高真空中の室温下で行った。ナノコンタクト作製にはScanning Tunneling Microscopy-likeな機構を用い、外部からの振動をカットすることで数十mSの保持時間を持つナノコンタクト作製に成功した。ナノコンタクトの電流一電圧特性計測には、周波数1〜3kHz(周期0.3ms〜1ms)の三角波バイアス電圧を用いる。また、超高真空中では、Arイオンスパッタリングにより試料表面清浄化し、不純物を除去してから測定した。 結果、金、白金だけでなく銀、銅ナノコンタクトについてもコンダクタンス非線形性特性をしめすことがわかった。超高真空中で試料清浄化前後ともに、非線形性があらわれることから、不純物に起因するものではないと考えられる。さらに定量的解析を行うため、電流-電圧特性を三次関数(I=aV+bV^2+cV^3)でフィッティング解析した。ナノコンタクトのコンダクタンスGは、ゼロ点バイアスのコンダクタンス値aから求めた。フィッティング解析の結果、いずれの電流一電圧特性においてもb〜0となり、整流性はない。非線形性を表すパラメーターc/aは、コンダクタンスGに依存せず、ほぼ一定になることが明らかになった。さらに、c/aの値は物質によって異なり、Au;0.38±0.01、Pt;0.44±0.01、Ag;0:32±0.02、Cu;0.43±0.04とわかった。この実験の理論的解釈として、ドルーデモデルを考える。ドルーデモデルでは、加速電場によりオームの法則からのずれが生じ、I=(σ_0・S/L)V+(σ_0・S・β/L^3)V^3となる(σ_0;伝導度、β[m^2/V^2]はエネルギー緩和時間、運動量緩和時間のエネルギー微分に比例する)。ナノフンタクト(長さL〜10^<-9>[m])への電圧印加を考えると、オームの法則からのずれを表すV^3の項が強く影響すると考えられる。このとき、ナノコンタクトの面積(S[m^2])がコンダクタンスを決定していると仮定するなら、c/aはコンダクタンスGに依存しない。これは、本実験で得られた結果c/a=一定であることに一致する。
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