研究概要 |
本研究では造血器腫瘍に対する抗癌剤感受性を規定する細胞内因子を明らかにすることを目的とした。近年、抗癌剤感受性規定因子として注目されているDNA修復を含めたDNA代謝を司る分子として、Thymidylate Synthase (TS)に着目した。また細胞からの抗癌剤排出を制御し多剤耐性遺伝子として知られている、Mulutidrug resistance 1 (MDR1)を選び、それぞれについて以下に示す解析を行った。 I.Thymidylate Synthaseの発現量と抗癌剤感受性 抗癌剤感受性におけるThymidylate Synthase (TS)の量的意義を明らかにするために、TSの活性を調節可能な細胞株を用いて抗癌剤感受性解析を進めた。現在までにcDNAを可変プロモータ下にコードしたTS発現ベクターを作成しており、引き続きTS発現ベクターをトランスフェクトした造血器腫瘍細胞においてTSの発現量を可変的に設定したうえで5-FU,MTX等の各種抗癌剤の活性測定を行う。最終的にはTSの発現および活性と抗癌剤感受性の間の関数的関係を明らかにすることを目標としている。 II.MDR1の遺伝子多型と抗癌剤感受性および白血病の発生 多剤耐性遺伝子MDR1の遺伝子多型に基づいた薬効および副作用の予測さらに発がんとの関連解析を行った。小児急性リンパ性白血病(ALL)における相関解析では遺伝子多型-2352 G>AについてMTX投与後の血清ビリルビン値との間に有意な相関を認めた。-2352 G>A多型および3435C>T多型は、対照群とALL群の間に有意差が認められた。また-2352G>A多型において正常白血球mRNA発現量とアリルタイプの間に相関が見られた。以上の結果より、小児ALLの発症にMDR1の遺伝学的背景が関与している可能性が示された。
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