本年度は、国外ではグアムからSicyopterus lagocephalusを20個体およびStiphodon percnopterygionusを53個体、フィジーからS.lagocephalusを40個体およびStiphodon spp.を50個体、そしてポナペからStiphodon sp.を38個体採集し、また国内では静岡県からSicyopterus japonicusを30個体採集することができた。これらの標本の形態計測(外部形態10形質および内部形質9形質)と遺伝子解析の下準備(ミトコンドリアDNAの調節領域および16SリボソームRNA領域の増幅)は既に終了している。レユニオン島、沖縄県、グアムそしてフィジーに生息するS.lagocephalusは、形態学的に明瞭な地理的差異がないことを明らかにした。同様に沖縄県とグアムに生息するS.percnopterygionusにも形態学的な差がないことを明らかにした。今後、S.lagocephalusについては、台湾、インドネシア、ニューカレドニアおよびタヒチの標本を含め、そしてS.percnopterygionusについては、小笠原およびパラオの標本を含め、形態学的および分子遺伝学的解析を行い、これらの集団構造を明らかにする予定である。S.japonicusはメタポピュレーションを形成することが分子遺伝学的解析より明らかになっている。これは約8ヶ月間の海洋生活において各地域の仔魚が混じり合うことを示唆している。 ボウズハゼ属魚類の特異な両側回遊の生活史を明らかにするために、和歌山県那智勝浦町の太田川において平成15年6月から16年10月まで毎月1回、S.japonicusの採集を行った。この採集および標本より生活史について以下の基礎的情報を得た。(1)S.japonicusは周年、中流域に高密度に分布する。(2)雄は雌より体長・体重ともに有意に大きい.(3)年齢は0~6歳であった。(4)肥満度と生殖腺指数の季節的変化、卵塊の発見時期および流下仔魚の出現時期より産卵期は夏である。(5)流下した仔魚の海洋生活期間は夏から春にかけての約8ヶ月間である。
|