研究課題
本課題は過去の海面上昇、とくに最近2000年の現象として知られている海面上昇に対して、マングローブの立地がどのように維持されてきたかを、植生学、花粉分析学、地形学からの解析を総合して肥握することを目的としたものである。調査地としては著しい土地の沈降が知られ、したがって相対的に大きな海面上昇が見込まれる太平洋域のポンペイ、コスラエ両島(ミクロネシア)と、逆に土地は降起傾向にあり海面上昇が相対的に小さいと見込まれる大陸縁辺のセブ、ボホール両島(フィリピン)を選んだ。コスラエ島では2地点で、ポンペイ島では1地点で、地形断面・植生配列の記載、ボーリングによる表層地質の探査、花粉分析用試料および年代測定用試料としての泥炭採取をほぼ網羅する調査ができた。オヒルギを主とする最も発達したマングローブ林の立地は、多くの場合2〜3メーターの厚さの泥炭から成り立っていた。泥炭は植物の遺体が未分解のままに堆積したものなので、このことは、海面が現在よりも相対的に2〜3メーター低い時期があって、その時に現在に連なるマングローブ林が成立し、その後海面は上昇し、その分を補填するように泥炭が堆積して立地が維持されてきたことを意味している。表層地質層位との詳細な対照は今後進められるが、現在得られている年代測定値によると泥炭層最下部の堆積年代は2〜3千年前で、単純に平均して年約1mmの海面上昇には耐えて立地が維持されてきたことになる。一方、フィリピンのセブ、ボホール両島では、マングローブが、概して無機堆積者、あるいはそれを覆うごく薄い泥炭を立地にして成立している。土地の隆起傾向が海面の上昇を打ち消すように作用したものとみられ、そのような地域で海面上昇の影響が潜在化する例が把握された。
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