研究概要 |
3年に亘って実施したマダガスカル島での野外調査の結果,興味ある神経毒成分を含む多くの小動物が同島に棲息することがわかった。今年度は,今後の化学的成分分析に材料的に不足なものは現地に採取を依頼し,また,Mantella属のカエルとlsaro地区のサソリは直接現地から生きた儘持ち出してもらった。マダガスカル側の共同研究者であるAndriantsiferana教授がこれらの研究材料を持って来日されるのを機に,最終年度として研究成果の総括を行い,同時に今後の研究目標の整理を行った。 1 調査地区:島北部(ディエゴシュアレス,モンターニュダンブレ),東部降雨林地帯(マロアンツェトラ,タマタブ,ザハメナ、アンダシベ,モラミザハ,ナモロナ),中央高地(アンタナナリボ,アンカボケリ-,アンパトランピー,ラノマトファナ,イサロ,ラノヒラ,アンカラナナ),島西部(チュレアル),島南部(フォールド-ファン,ベレンティー)。 2 採集有毒動物 (1)両生類:Mantella属カエル8種,Scaphyophrne属カエル1種,Discoglossid属カエル1種,他種名不詳カエル3種(J.W.Daly博士により米国NIHで種名同定中)。 (2)節足動物類:Nephyla属クモ1種,Nephylengis属クモ2種,Coerostria属クモ2種(国立科学博物館小野博士による同定の結果,いずれも新種)その他種名同定中クモ5種,種名同定中サソリ5種,カリウドバチ2種(Polistes olivacens,Delta emarginatum regina)シロアリ1種(フランス国立科学博物館で種名同定中)等。種名同定用の標本を除き,現地で毒素の調査を行って日本に持ち帰った。 (3)その他の現地調査:双翅目昆虫を主体とする衛生害虫の調査を行った。また,マダガスカルにおける寄生虫病の調査をおこない,マラリア媒介カの種類,各種条虫,線虫,鞭毛虫の分布区域を明確にした。 3 毒素の解明 (1)カエル皮膚神経毒の解析:Mantella属のカエルは皮膚にイオンチャネル遮断作用を持つ各種アルカロイドを含み,これらをGC/FTIR,NMR,MSで解析し,その化学構造を明らかにした。 (2)Polistes olivacens毒腺からマスト細胞脱顆粒作用を持つペプチド2種を単離しアミノ酸配列を決定した。 (3)Nephylengis borbonica毒腺から30種にのぼるポリアミントキシンを単離し構造解析を行った。また,Coerostris属のクモは全く新規なアミノ酸とカダベリンからなる神経毒とタンパク性の神経毒を含み,これらの全構造を解明した。 (4)イサロ地区で採集したサソリの毒腺から多数の神経毒を単離した。その約半数はマウスに対し毒性を発揮し,残りはハスモンヨトウに対し毒性を発揮し,哺乳動物毒と節足動物毒の両方を含むことがわかった。現在構造解析中である。 (5)Mantella属カエル皮膚アルカロイドの由来,熱帯産カエルの皮膚はMantellaの他にも南米のDendrobatesのように神経毒性アルカロイドを含むものが多いが,その由来については不明である。我々はこれらが食餌に由来する可能性を想定し,これらカエル生息地に普通にみられ,かつ,カエルの胃の内容物にも発見されるシロアリを疑い,シロアリの抽出物の分析をおこなった。その結果,5種類のトリネルビタン骨格をもつ,ハスモンヨトウに対し毒性を顕す化合物を得,MS/MSにより構造を決定した。しかし,これらの化合物は構造的にアルカロイドの前驅体とはなりにくく,次に腸内細胞の生産物に着目し,カエルを飼育し糞の分析を行っている。 今回の調査で得られた材料で未解析の物も多く,さらに化学的解明を続行するが,マダガスカルは未知の神経毒性を示す動植物が多数存在することが判明した。これらの解析結果が一応の決着をみた後,再度この地区の植物起源の神経毒を含めた調査を実施したい。
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