研究分担者 |
VIPADA Chaov ウボン地区病院, 内科学, 医長
WATTANACHAI スサエングラット コンケン地区病院, 内科学, 医長
UDOM Chantha マヒドン大学, 理学部, 助手
CHAIRAK Shay マヒドン大学, 医学部, 助手
SAMAISUKH So マヒドン大学, 理学部, 講師
SOMKIAT Vasu マヒドン大学, 医学部, 助手
PRIDA Malasi マヒドン大学, 医学部, 講師
SUMALEE Nimm マヒドン大学, 医学部, 教授
SANGA Nilwar マヒドン大学, 医学部, 教授
村井 善郎 東京都多摩老人医療センター, 血液科, 医長
千葉 百子 順天堂大学, 医学部, 助教授 (80095819)
小松 康宏 東京女子医大, 医学部, 助手 (60195849)
稲葉 裕 順天堂大学, 医学部, 教授 (30010094)
五十嵐 隆 東京大学, 医学部, 講師 (70151256)
SUMALEE Nimmannit Department of Medicine, Faculty of Medicine, Siriraj Hospital
SAMAISUKUH Sophasan Department of Physiology, Faculty of Science, Mahidol University
WATTANACHAI Susaengrat Department of Medicine, Khon Kaen District Hospital
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研究概要 |
世界的にも個別症例はもとより、同一地域内多発の報告がない疾患の一つである成人型の原発性遠位尿細管性酸血症(アシドーシス)がタイ東北地方に多発する原因を追求することを目的として、現地での実態調査と病態生理追求のための動物モデルを作製し以下の新知見を得た。 1、実態調査:タイ東北部のUbol県に属するUbol Rajathanee地区病院に調査センターを設置し、アシドーシス患者と家族並びに同地域の健常者を対象にインタビュー、臨床医学所見、血液、尿などの臨床生化学検査を実施した。又、農村部の食餌、水、土壌、農産物等の試料をも採取し、ヒトの試料と共に日本に持ち帰り、微量元素含有量を測定し以下のような知見を得た。 (1)アシドーシス症例は女性に多く、症例の年令が高く、身長が低く、体重が軽く、従ってBMI(体重/(身長)^2)が低値であった。尿比重は有意に低かった。 (2)症例の尿中β2マイクログロブリン、pHが有意に高く、クレアチニンは低値であった。 (3)尿中バナジウム(V)は症例で有意に高値であった。 (4)血漿中Mgは男女症例で有意に高く、Kは低値であった。Znは男性症例で有意に高く、Naは女性で低かった。 2、Mg欠乏動物モデルでの検討:マグネシウム(以下Mg)は生体内の様々な生理的、生化学的反応に必須の元素であり、その欠乏によって、けいれん、不整脈、尿細管性アシドーシスなどの重篤な病態が生じる。尿細管での溶質輸送の駆動力となるNa,K-ATPaseはMg依存性ATPaseの一種であるから、その活性はMg濃度に影響される。しかし、これまでMg欠乏下での尿細管Na,K-ATPase活性の変化については検討されていない。Mg欠乏は高率にK欠乏を合併することが知られているが、その成因は尿細管Na、K-ATPaseの活性変化と、そのために引き起こされるK再吸収低下である可能性がある。また、Mg欠乏では、ヘレン係蹄太い上行脚において代償的にMgの再吸収が亢進し、生体のMg恒常性を維持、調節する。この代償性のMg再吸収亢進の機序として、尿細管Na,K-ATPase活性の変化が関与していることもかんがえられる。さらに、タイ東北部で発生する本症例の原因としてもMg欠乏が考えられる。Mg欠乏によって、尿酸性化部位である集合尿細管のNa,K-ATPaseやH-ATPase活性低下が低下するならばアシドーシスが発症すると考えられるからである。実際に、Mg欠乏によりアシドーシスが生じたとの症例報告もある。そこで、これらの疑問点を解決するために、Mg欠乏が尿細管イオン輸送性ATPaseに与える影響をラット腎単離尿細管を用いて検討して以下の知見を得た。 (1)Mg欠乏下ではNa、Mgの主要再吸収部位である太いヘンレの係蹄上行脚のNa,K-ATPase活性が低下した。 (2)集合管での同酵素活性は有意に増加することを明らかにした。集合尿細管Na,K-ATPase活性が低下した場合、電位依存性の高K血症性遠位尿細管性アシドーシスが発生し得るが、本研究では予測に反し集合管Na,K-ATPase活性はむしろ増加することが示された。 3、低K食で飼育したラットの蛋白尿分析:ラットを3カ月間低K食で飼育し、低K血症を引き起こした時の、尿中低分子蛋白の有無とそのパターンを解析した。低K食で飼育したラットの尿には蛋白が増加した。低分子蛋白の増加も認められたが、それよりも分子量のより大きい蛋白の増加が著名であった。 幾つかの不明な部分は今後の研究課題として残されたが、以上の結果は稀有な本症例の発症の成因の一つとして電解質や微量金属摂取量の差異等の外環境因子の関与が初めて明らかにされた。
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