研究概要 |
トルコ共和国の北部を東西に走る北アナトリア断層帯は,地震予知において非常に重要ないわゆる地震空白域を有していることから,地震予知研究にとって格好のテストフィールドと考えられている.とくに,その西部域に存在する地震空白域は国際的にも注目されており,ユネスコから国際地震予知実験場の一つとして指定されている.本研究の目的は,このテストフィールドにおける地震予知基礎研究の一環として,活断層分布と地震発生様式との関連を明らかにすることである. 本年度は,基本的には昨年度行った現地調査で得られたデータの解析を行うことが主目的であるが,昨年度不十分であったいくつかの観測項目において本年度も補充観測を行った.そこで,まずこの補充観測から得られた成果についてまとめる. (1)地震観測に関しては,空白域の微小地震活動様式を調べることを目的としたテレメータ方式による地震観測網を昨年度設置し,当初は順調に地震観測が行われていたのであるが,計器の不調が続出したためいくつかの観測点は観測中断のやむなきにいたった.さらに,トルコ国内の無線周波数に変更があり,これまで採用してきた方式に若干の変更を余儀なくされた.そこで,本年度も2名研究者を派遣し,新テレメータ方式に変更するとともに,不調計測システムの更新をはかった.その結果,比較的安価で取扱いが簡単な地震観測システムを構築でき,やっと本格的地震観測に入ることができた. (2)地震予知観測でもっとも重要とされる地殻ひずみの観測の必要性を当初から痛感していたのであるが,一般に経費が膨大にかかるため,科学研究費の枠内で取り込むことは不可能に近かった.幸いなことに最近安価なひずみ計が開発されたので,早速1台導入し,本年度派遣した2名の努力で我々のテストフィールドに設置することができた.ひずみ計は埋設後1年程度はドリフトが激しく,高感度のデータを得ることはできないが,現在のところ順調に稼働しており,予定通りの観測が可能であると思われる. (3)これまでの地磁気観測から,活断層近傍に特徴的な磁気異常が観測されているので,今回派遣した2名がさらに広範な磁気測量を行ったところ,新たに磁気異常が発見された.この磁気異常は,地震空白域東部に位置し,地震予知研究の観点から重要な情報となることが期待される. つぎに,昨年度行った観測から得られたデータの解析,及び既存のデータをも含めたより広範なデータの解析より得られた成果について以下にまとめる. (1)精密重力測定から得られたデータの整理・解析が進み,我々のテストサイトにおける重力変化研究のための基礎データが提供できた.地震予知研究という観点からは,繰り返し測定が必要である. (2)地震の震源過程の研究を進めているが,本年度はまず1992年にトルコ東部で起こったエルジンジャン地震をとりあげた.地震波解析の結果,この地震は右横ずれ断層の運動によることがわかり,北アナトリア断層の活動であることが判明した.さらに,応力効果量が大きく,エルジンジャン付近の地殻は比較的大きなひずみを蓄積できるらしいこともわかった.つぎに,我々のテストフィールドに隣接するムドゥルヌ谷で起こった1967年の地震を取り上げ,震源過程の研究を進めている.この研究は,地震予知研究の観点からも非常に重要である. (3)地形調査からは,地震発生の際に出現する断層変位の累積に関する情報等,地震発生時期の長期的予測にとって重要なデータが得られた. (4)地磁気・地電流観測データの解析も順調に進んでいる.とくに,地電流データについては,イスタンブール近傍で発生したマグニチュード4.8の地震に関連する異常らしき変化が観測されており,国際シンポジウム「地震に関連する電磁気現象」において詳しく紹介している. 本年度は,トルコ側研究者1名を招へいした.我国滞在中に,鳥取で開かれた東アジア地震学会に参加し,本研究で得られた地震データの解析結果を発表した.また,東北大学を中心とする我国の日光における地震合同観測地域を視察し,最新の観測機器及び観測体制等,今後のトルコにおける地震観測にとっても大いに参考となったものと思われる.
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