研究分担者 |
SIHOTANG C. Riau大学, 水産学部, 講師
NONTJI A. LIPI, 陸水学センター, 所長
SOEROTO B. Sam Ratulangi大学, 水産学部, 講師
酒泉 満 新潟大学, 教養部, 助教授 (40175360)
成瀬 清 東京大学, 理学部, 助手 (50208089)
嶋 昭紘 東京大学, 理学部, 教授 (60011590)
岩松 鷹司 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (90023994)
SOEROTO Bambang FAC. OF FISHERIES, SAM RATULANGI UNIVERSITY, LECTURER
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研究概要 |
本研究は1992年から1993年にかけて行なわれたものであるが、予備調査として行なわれた1991年を含め、3年間の研究概要をまとめて以下述べることとする。 メダカとその親戚筋からなるメダカ亜目魚類(Adrianichthyoidei)はアジア固有の淡水魚である。3科4属十数種からなる小さなグループであるが、アジアにおける淡水魚の系統と種分化の研究には格好の材料である。このうち、もっとも種類の多いメダカ科メダカ属(Family Oryziidae,Genus Oryzias)については、これまでの研究でその系統と種分化が地理的分布と密接に関連していることが明らかになっている。本研究で現地調査の対象としたインドネシアのスラベシ島には、メダカ属魚類6種のほかに、その親戚筋のアドリアニチクス科(Family Adrianichthyidae)の魚2属3種が生息している。狭い地域にこれだけ多くの種類が生息している地域は他にはなく、スラベシ島はメダカ亜目魚類の研究にとってたいへん重要な地域と言える。 しかし、最近の報告によると、この島の湖沼は外来の経済魚の導入などにより急速な環境の変化が起こり、在来魚種は絶滅の危機に瀕している。 本研究は、それらの魚を調査、収集して、核型やDNA・アイソザイム分析などの実験的手法によりメダカ亜目全体の系統と種分化を明らかにすると共に、陸水学的調査によって生息地の環境の現況を解析し、在来固有種の保護のための基礎的知見を得ることを目的としている。 現地の調査は予備調査が1991年12月から1月に、本調査は1992年9月から10月に行なわれた。調査を行った湖沼の数は2つの小池を含めると9湖沼で、その内容は火口湖2、断層湖3、河川氾濫湖3、河跡湖1である。2っつの火口湖はいずれも富栄養化傾向にあり、周辺からの土砂の流入により急速に浅化しつつある。3っつの断層湖はいずれも水深100mを越える深い湖で、貧栄養湖ではあるがいずれの湖沼からもメダカ属が確認された。河川氾濫湖のうち、2つの大湖は水位の変動が季節的に大きく、富栄養湖的特徴のある湖であるが、北部スラベシにあるリンボト湖は透視度が低く、メダカ属の存在は確認されなかった。一方、南部スラベシのテンペ湖では広い水生植物帯に大量のセレベスメダカの生息を確認した。河川については50地点が調査され、北部、中部、南部の水質
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特性が明らかにされた。 本調査の結果、スラベシ島のメダカ亜目魚類の分布は中南部に限られ、北部には生息が確認できなかった。このうち、メダカ属魚類については、これまで報告されていた6種(O.nigrimas,O.matanensis,O.orthognosus,O.matanensis,O.marmorarus,O.profundicola,O.celebensis)のほかに、O.javanicus(ジャワメダカ)がスラベシ島南端のジェネポントの塩田から新しく発見された。ジャワメダカは汽水性の種で、インド、スリランカからインドネシアのジャワ島、ロンボク島まで、ベンガル湾沿いに広く分布しているが、スラベシ島に生息していることが確認されたのはこれが初め手である。 ポソ湖から報告されているアドリアニクチス科の魚3種のうち、M.コラット博士が1988年に発見したX.oophorusは現在でも多数生息していることが確認されたが、絶滅が心配されているA.kruityとX.poptaeについては、さまざまな漁法を試みたが採集することはできなかった。 スラベシ島のメダカ亜目魚類の生息環境は、どちらかというと貧栄養的であり、そこに住むメダカ類も、アジア各地に生息するメダカ属魚類と違って貧栄養的条件に適応しているようにみえる。しかし、人為的影響が認められる水域に生息していたメダカにはイカリムシや寄生虫のシストを付けているものが多く見受けられたので、水質汚染による生息環境の変化がこれらの魚類の生息に影響する懸念は否定できない。 セルロースアセテート電気泳動法により、5種の酵素を用いてポソ湖のメダカ属魚類の遺伝的な集団構造を推定した結果、今回調べた個体はすべて同じ遺伝子プールを共有していることが確認された。また、核型分析の結果はスラベシ島産メダカ属魚類4種は染色体数が2n<48、腕数はNF=48で、いずれも大形の両腕型染色体を持っており、両腕染色体型グループに属することが明らかにされた。 以上の結果を、本年度はインドネシア側研究者の来日を得て、検討、整理し、スラベシ島の陸水学的特徴についてはC.シホタンと沖野が連名で第7回太平洋学術会議中間会議(沖縄)で報告した。A.ノンチはこのセッションのとりまとめを行なっている。残りの報告は日本動物学会第64回大会で各個に報告すると共に同大会の第7回メダカシンポジウムでまとめて報告している。このシンポジウムでB.ソロトはスラベシ島の魚類の分布と外来種と在来固有種の問題について提起した。全体の研究については本研究の最終報告書として印刷、配布した。 隠す
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