研究課題
国際学術研究
本研究では、旧東西ドイツ国境地域の地域構造の変化を明らかにすることを試みた。その際、この地域の特色を浮き彫りにするため、旧東ドイツの地域構造の特色も併せて把握した。また、ドイツに近接するチェコ、ハンガリーについても若干の考察を試みた。これは、ドイツ統合を契機にこれらの近隣諸国の地域構造も大きく変化しているからである。ドイツ統合以前、旧ドイツ国境地域は旧東西ドイツそれぞれのなかで「後進地域」となっていた。政治が否定的に作用した場合、国境の存在が地域の活力を大きく低下させていたことを如実に物語るものだった。ドイツの統合は、とりわけ旧東ドイツならびに旧東ドイツの国境地域を根本的に変えることになった。ドイツの統合によって、旧東ドイツは計画経済から市場経済に移行した。こうした変化から明らかなように、旧東ドイツの変化は、端的にいえば「旧西ドイツ化」といえるだろう。しかしながら、「旧西ドイツ化」とは、旧西ドイツと同じになってしまうことを意味するのではない。旧東ドイツの変化の特色として、特につぎの2点があげられるだろう。第1は、旧東ドイツの特色を踏まえた変化が生起していることである。たとえば、こうした変化は農業に典型的にあらわれている。旧東ドイツでは、法人組織の農業経営体が重要な役割をはたしているが、これは、共同経営ならびに経営規模が大きいという旧東ドイツ時代の農業の特色を反映したものとなっている。第2は、旧東西ドイツに生起していた問題の反省にたって地域の復興・発展政策が実施されていることである。たとえば、公共交通を重視した交通政策や自然環境を保護するための環境政策が強力に推し進められていることなどである。こした背景には、旧西ドイツや旧東ドイツで自動車の増加に伴う都市構造の破壊や大気、地下水の汚染などの環境問題がきわめて深刻化していたという事情があったからにほかならない。こうしたなかで、旧西ドイツとの旧国境地域はとりわけ大きな変化をとげることになった。これは、この地域が従来の緑辺地域から一転ドイツの中心地域に位置することになったからである。また、この地域が旧西ドイツの影響を最も強く受けるようになったからでもある。統合後のこの地域の変化の特色として、つぎのような点があげられるだろう。1)旧西ドイツ市場へ通勤している人がより多い。2)旧西ドイツ(EU諸国)の企業の進出-たとえば旧西ドイツの農家など-がより顕著である。3)耕地の需要が高く、地価が高い。4)都市化の進展がより顕著となっている。5)自然保護区に指定されている面積が大きい。これは、この地域に自然が豊富に残っていたためである。ただし、旧東ドイツの急激な復興・発展が進むなかで、既述したこの地域の特質は薄れていることを指摘しておかなければならない。それだけ、旧東ドイツの復興・発展が急激に進んでいるのである。ドイツの統合を契機にして、ドイツと近隣諸国、とりわけ、チェコ、ハンガリー、ポーランドなどのいわゆる中央ヨーロッパ諸国との関係は緊密化した。それだけ、これらの国に対するドイツの影響力が高まってきたのである。これらドイツ近隣諸国の注目すべき変化は、つぎのようにまとめることができるだろう。1)ドイツ統合を契機に民営化が急激に進展している。2)地域格差は縮小しておらず、むしろ拡大している。3)ドイツとの国境地域ではドイツの影響を受けて地域の再生が急速に進んでいる。残された課題として、つぎの2点をあげることができる。一つは、ドイツの統合化の過程をさらに多面的に追求していかなければならないこと、もう一つは、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどのドイツの近隣諸国を含めた広域的な地域構造の変化をさらに詳細に把握する必要があることである。
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