アフリカ タンガニイカ湖の魚類を中心とする生物群集の多様性に関する研究

1994 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 04041078
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 愛媛大学
• 研究代表者: 柳沢 康信 愛媛大学, 理学部, 助教授 (90116989)
• 研究分担者: GOSHAGAZA M. ザイール科学研究省, ウビラ研究所, 所長 ; MWAPE Leonar ザンビア水産研究所, タンガニイカ湖支所, 研究員 ; MILINDI Godf ザンビア水産研究所, タンガニイカ湖支所, 研究員 ; 幸田 正典 大阪市立大学, 理学部, 講師 (70192052) ; 田中 哲夫 姫路工業大学, 自然環境研究所, 助教授 (40244694) ; 仲谷 一宏 北海道大学, 水産学部, 助教授 (00002353) ; 西田 睦 福井県立大学, 海洋生物資源学科, 助教授 (90136896) ; 掘 道雄 京都大学, 理学部, 助教授 (40112552) ; 川那部 浩哉 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (60025286) ; GASHAGAZA M.mukwaya C.R.H./Uvira, Zaire
• 研究期間 (年度): 1992 – 1994
• キーワード: 群集生態学 / 魚類群集 / 生物多様性 / 種間関係 / 協同関係 / 地理的変異 / カワスズメ科魚類 / タンガニイカ湖

研究概要

アフリカ大地溝帯域の巨大湖でのカワスズメ科魚類(シクリッド)の著しい適応放散は、脊椎動物のなかでは他に例を見ないものである。そのなかでもタンガニイカ湖のシクリッドは、アロザイム分析からも明らかになったように(Nishida 1991)、東アフリカのすべての古い系統群を保存する多彩な複合グループから成り立っていて、その生態学的な分岐はもっとも著しい。
シクリッドでは、子供が稚魚になるまで長期間保育するので浮遊期が欠落している。そのため、個体の分散が限定され、岩礁性の種にとっては砂浜が、砂地性の種にとっては岩礁が遺伝子交流のバリアになっている。したがって、湖内の地理的に離れた場所では、生息環境が類似していても、魚類群集の構成メンバーは微妙に異なっている。ある群集のニッチが他の群集では同一食性ギルドの別種によって置き換わっていたり、同種であっても形態的・色彩的に異なるモルフが占めていたりする。このように大枠では類似しながらも微妙に差異のある群集の比較は、群集内にはたらく諸力の解明のための有効な研究方法である。
本プロジェクトでは、当初、南北に細長く600kmのびるタンガニイカ湖の西湖岸全域を調査対象とする予定であったが、この区域の大半を領するザイールが1991年10月政情不安に陥り、爾来渡航自粛勧告が出されているので、調査域を南端のザンビア及び北端のブルンジに限定せざるを得なくなった。そこで、(1)比較的小さいスケールでの群集比較および構成種の地理的変異調査、(2)一つの群集内での、各魚種の場所利用、産卵・繁殖行動、配偶システム、摂餌行動、および種内・種間関係の観察、(3)群集の構成メンバーの分類学的位置の再検討、に主眼を置くこととした。
(1)については、湖南端約60kmの湖岸線の10ヶ所余りの地点で種類組成、各種の個体数密度、垂直分布などを調査し、また代表的な30余種については色彩および形態の地理的変異も調べた。その結果、(a)砂地性の種より岩礁性の種に地理的変異が著しいこと、(b)少なくともこの5万年は存在し続けた幅数キロの砂浜が、岩礁性の多く種にとって遺伝子交流のバリアになっていること、(c)ベントス食者では、群集間でかなり明瞭な置き換わりが起こり、近縁種の有無によって形質置換が起こっていること、が明らかとなった。また、これまでほとんど調査されることのなかった水深60-180mの魚類を刺し網で多数採集し、深場の魚類群集が動物プランクトン食者、ベントス食者、魚食者、鱗食者の肉食者のみから構成されていることが明らかとなった。
(2)については、主にザンビアのムプルング周辺で継続的な調査を行った。主な成果は下記のとおりである。(a)局所的に高密度で分布する巻き貝の死殻が産卵・保育の基質としてシクリッドによって広く利用されている。他の地域で岩礁の穴などを産卵・保育場所としている種が貝殻を利用している場合には、貝殻の内部のスペースが限定されているため、雌または雌雄両方が顕著に矮小化していた。このことは、基質の利用可能性と対応して成熟サイズの可塑性が高いことを示唆している。(b)これまでの調査で、タンガニイカ湖魚類群集内のさまざまな協調的・相互依存的な関係が示されているが、今回の調査でも、保育中の大型魚食者の存在が、別の魚種の群れの「見張り役」になっている例や、定住性の強い種の種内・種間を問わぬ非選択的攻撃が、近くにいる種の保育効率を上昇させている例などが明らかになっている。
(3)については、現在、採集した標本に基づいて北端と南端に分布するシクリッドの分類学的再検討を進めている。模式標本との比較によって、Xenotilapia属などいくつかのグループの再検討はほぼ完了した。また、DNA分析によって、シクリッド全体の系統を再検討するとともに、種内の地理的な遺伝的分化も現在検討している。

研究成果

• [文献書誌] Hori,M.: "Frequency-dependent natural selection in the handedness of scale-eating cichlid fish." Science. 260. 216-219 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Hori,M.,M.M.Gashagaza & H.Kawanabe: "Littoral fish communities in Lake Tanganyika:irreplaceable diversity supported by intricate interactions among species." Conservation Biology. 7. 657-666 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.: "Individual specialized foraging reperoires in the piscivorous cichlid fish Lepidiolamprologus profundicola." Animal Behaviour. 48. 1123-1131 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Kohda,M.,Y.Yanagisawa,T.Sato,K.Nakaya,Y.Niimura,K.Matsumoto & H.Ochi: "Geographical colour variation of cichlid fishes at the sourthern end of Lake Tanganyika" Environmental Biology of Fishes. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Ochi,H.& Y.Yanagisawa: "Interspecific brood-mixing in Tanganyikan cichlids." Environmental Biology of Fishes. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Yanagisawa,Y.,H.Ochi & A.Rossiter: "The parent's buccal cavity is a feeding ground for young of the Tanganyikan cichlid Microdontochromis tenuidentatus" Ecology of Freshwater Fish. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 川那部浩哉、遊麿正秀編: "生態学からみた安定社会 多様性の維持と促進-タンガニイカ湖の魚類群集から-" 土倉事務所, 278頁 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 掘道雄編: "シリーズ地球共生系6 タンガニイカ湖の魚たち-多様性の謎を探る" 平凡社, 286頁 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Hori, M.: "Frequency-dependent natural selction in the handedness of scale-eating cichlid fish." Science. 260. 216-219 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Hori, M., M.M.Gashagaza & H.Kawanabe: "Littoral fish communities in Lake Tanganyika : irreplaceable diversity supported by intricate interactions among species." Conservation Biology. 7. 657-666 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M.: "Individual specialized foraging repertoires in the piscivorous cichlid fish Lepidiolamprologus profundicola." Animal Behavior. 48. 1123-1131 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kohda, M., Y.Yanagisawa, T.Sato, K.Nakaya, Y.Niimura, K.Matsumoto & H.Ochi: "Geographic color variation of cichlid fishes at the southern end of Lake Tanganyika" Environmental Biology of Fishes. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Ochi, H.& Y.Yanagisawa: "Interspecific brood-mixing in Tanganyikan cichlids." Environmental Biology of Fishes. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yanagisawa, Y., H.Ochi & A.Rossiter: "The parent's buccal cavity is a feeding ground for young of the Tanganyikan cichlid Microdontochromis tenuidentatus." Ecology of Freshwater Fish. (in press).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Kawanabe, H.& M.Yuma (ed.): Dogura Press. Stable Societies-An Ecological Perspecitive : Biodiversity in Lake Tanganyika. (in Japanese), 1-278 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Hori, M.(ed.): Heibonsha. Fishes in Lake Tanganyika : An Attempt to Solve a Riddle of Biodiversity. (in Japanese), 1-286 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より