研究課題
国際学術研究
昨年度に引き続き、ザンビアでは、首都ルサカの北方約100kmの地点にあるチネナ村において現地調査を実施した。先ず、土地利用に関しては、昨年度実施したカンチョンチョ・ダンボの測量に引き続き、今年度はその周辺畑地の測量を実施した。また、農業経営、労働力移動等に関する聴取調査では、昨年度に実施した調査項目の継続調査を行う一方、昨年度の調査で遺漏のあった世帯を補足調査した。カンチョンチョ・ダンボの地形学的、水文学的調査では、昨年度実施の地形測量結果、水質調査結果をもとに、今年度は土壌侵食状況調査並びに地下水位調査に力点を置く調査を行った。気候変化の調査に関しては、再度現地気象庁を訪問し、昨年度入手の気象データの欠損箇所の補足調査ならびに新しい気象データの入手に努めた。また研究代表者は、昨年度ジンバブウェ大学訪問の際に指摘を受けた連合王国ラフボロ-大学のダンボ研究班の研究動向を調査するため当地を訪ね、同研究班の研究状況と今後の研究計画について説明を受けた。さらにダンボに比べ農業利用の歴史が非常に古い西アフリカの底湿地ファダマの農業利用と環境変化に関する現地調査を行った。これらの結果、以下の点が新たに明らかになった。先ずザンビアのチネナ村における調査においては、1)ザンビアにおいては農業生産が、いまだに気象条件の変化に大きく左右されており、近年干ばつが頻発し、その影響で低湿地帯であるダンボ利用がそくしんされている可能性がある。2)それと同時に、一党独裁から多党制への移行、構造調整政策の実施などの政治的経済的変動の影響もダンボの集約的利用に拍車をかけている。これは、それらの変化が都市部住民の経済環境の悪化をもたらしているからである。3)都市部からその周辺部の農村への著しい人口流入は、ダンボ地域社会をマルチエスニックなものにしており、伝統的社会とは異なる地域社会を現出している。4)ダンボの高収益性が知れ渡るに従い、ダンボの土地の用益権をめぐって、農民の間で緊張が高まりつつある。5)ダンボの農業利用が、面積的のみならず農薬や肥料の投入の面でも急速に拡大している。6)その結果、ダンボの砂質土壌はある程度水質浄化機能をもっているものの、一部の畑の井戸では高濃度の窒素イオンが検出される事態が起きている。これは、農薬や化学肥料の利用による水質汚染の可能性が考えられる。7)土壌侵食はアップランド下端とダンボ斜面との変換点で最も発達し易い。これらの地点では、道路脇に一部ガリ-侵食が起きている、等のことが明かとなった。他方ジンバブエとナイジェリアにおける調査では、1)ジンバブウェでは、ダンボの最低部利用が全面的に規制されており、地下水位の深い井戸を利用せねばならず、揚水ポンプを使った集約的農業が盛んであり、2)一昨年来の大干ばつで、ダンボ利用規制撤廃の要求が高まっている。3)政府部内でもダンボ利用規制法の緩和が検討され始めているとのことであった(ラフボロ-大学情報)が、環境問題の心配から、すぐに規制撤廃にはいたらないようである等のことが明らかになった。さらにナイジェリアでは、ファダマの伝統的農業利用が潅漑計画の推進と競合していることが明らかになり、南部アフリカのダンボ利用をめぐる環境問題とは異なる問題が起きていることが明らかになった。地域的特殊性とは別に、ダンボやファダマ等の底湿地利用は、今日アフリカ各国政府が推進している構造調整計画(SAP)の影響を強く受けている可能性を示唆する事実が各地で観察された。SAPは、都市部住民の生活環境の悪化をもたらし、農村部への人口逆流、集約的農業の進展を加速しているようである。しかし、この点はさらなる調査を要する。近年その利用面積、利用頻度が急速に増大しているダンボ利用は、こうして自然的環境変化と経済社会的環境変化の両方の影響を受けていることが明らかになった。
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