研究課題
本研究は、国家規模の社会経済変動に対して、ボルネオの諸民族が法文化、言語世界、物質文化・技術体系、価値志向をいかに適応させてきたかを明らかにしようとしている。宮本およびパトリシアは、サバ州トゥアラン地区に伝統的なアニミズケの保持者、キリスト教徒、イスラーム教徒の混在する農村があることを確認した。これらの農村にはドゥスン固有法、キリスト教法、国家・州法、イスラーム法が併在し、複雑な法文化・価値体系が形成されており、物質文化の面では異なる技術体系が柔軟に受容されてきた。同様の状況はピタス地区でも見られた。内堀およびマトゥシンは、中央政府がイスラーム化政策を促進してきたブルネイのトゥトン地域でも、イバン族のイスラームへの改宗が近年急速に進みつつあり、キリスト教の影響が強いサラワク州のイバン族とは法文化、技術体系の状況が異なることを確認した。これらの事例は、政治環境の相違によって同一民族の適応形態がかなり異なることを示唆している。また佐藤、ピーター、アワンは、サラワク州のスマタン、リンバン、スリアマン、シブ各地域における調査を通じて、ロングハウスを保持する民族(スコラ族、イバン族など)とマレー風の個別住居に移行した民族(オラン・ウルのムルット族、ムラナウ族など)があり、民族的なアイデンディティの違いも、政治・経済的な環頼に対する文化的適応形態の差を生み出すことを発見した。染谷は、サバ州におけるジャワ移住民の調査から、同州の社会経済に対して彼らが果たした役割は極めて重要であり、移住先の異民族との調和的共存を目指す戦略のうちに、自らの伝統的な価値体系や言語体系を巧妙に駆使する側面が見られることを確認した。
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