北東アフリカにおける民族の相克と生成に関する実証的研究

1993 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 04041115
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 学術調査
• 研究機関: 京都大学 (1993); 国立民族学博物館 (1992)
• 研究代表者: 福井 勝義 京都大学, 総合人間学部, 教授 (60014510)
• 研究分担者: 栗田 禎子 国立民族学博物館, 第3研究部, 助手 (10225261) ; 栗本 英世 国立民族学博物館, 第3研究部, 助教授 (10192569) ; 出口 顕 島根大学, 法文学部, 助教授 (20172116) ; 稗田 乃 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (90181057) ; 大塚 和夫 東京都立大学, 人文学部, 助教授 (70142015) ; 堀 信行 東京都立大学, 理学部, 助教授 (40087143) ; 松園 万亀雄 東京都立大学, 人文学部, 教授 (00061408)
• 研究期間 (年度): 1992 – 1993
• キーワード: 北東アフリカ / エチオピア / スーダン / 民族の生成 / 民族間紛争 / 国家と民族 / 近代化と民族

研究概要

本学術研究の目的は、北東アフリカにおける多様な諸民族を対象に、人類学的な集約的調査を行い、その結果を体系的に比較研究していくことによって、この地域における諸民族の相克と生成に関する特性を、他民族との関係性の中で浮き彫りにしていこうとするものであった。
2年度にわたった本研究の学術調査は、スーダンとエチオピアの両国で実施された。調査対象となった民族は、自給自足的な生業経済を営む牧畜民・農耕民から、ナイル川沿いで商品作物の栽培を中心とする農民まで多様である。自然環境も、砂漠、半乾燥サバンナから、湿潤な高原と変化に富んでいる。さらに、国家との関係については、国家に包摂された民族と、自立的な状態を維持している民族とに大別される。各研究分担者の調査対象と内容は以下のとおりである。
大塚和夫は、スーダン北部のナイル川沿いで、揚水ポンプを用いた潅漑によって、主として商品作物の栽培を営むアラブ系自営農民の村落調査を行った。村落の社会組織や階層化とともに、イスラム教団や国家と村落との関係が主要な調査テーマであった。栗田禎子は、大規模な近代的潅漑農業が営まれる、白ナイル川と青ナイル川の合流地域、ゲジラ(ジャズィーラ)地方で調査した。多様な民族の出身者から構成される農業労働者と自営農民における民族間関係、国家の政策と農村との関係を、歴史的文脈の中で捉えることがテーマであった。堀信行は、スーダン東部の紅海に面した降水量の乏しいデルタ地域で、雨期に氾濫する河川を利用した雑穀栽培の自然地理学的調査、および農民の民族構成に関する調査を行った。出口顕は、イギリスの植民地統治下において、スーダン南部の諸民族の民族間関係がどう再編成・変化したかを、主として植民地の文献資料に依拠して調査した。
次にエチオピアで実施された調査は次のとおりである。栗本英世は、スーダンと国境を接するエチオピア西部のサバンナに居住する、ナイル系農耕民と牧畜民の民族間関係が、とくに社会主義政府との対立・協調関係のなかでどう変化したかを調査した。稗田乃は、スーダン南部とエチオピア西南部に分布するナイル系・スルマ系の諸言語を調査し、民族間の文化接触の過程が、現在の言語にいかに反映しているかを調査した。松園万亀雄は、エチオピア西南部の高地に居住するオモ系農耕民の社会組織と民族間関係について調査した。これは、約20年ぶりの再調査であったので、社会主義政府の以前と以後における変化についても資料を収集した。最後に、研究代表者の福井勝義は、エチオピア西南部のスルマ系牧畜民における民族間紛争、牧畜民による農耕民の掠奪、および近年における国家と民族の関係について調査を行うとともに、エチオピア・スーダン両国の研究機関との調整と研究打ち合わせに従事した。
本学術研究の第一の成果として、とくに日本では人類学的知見の乏しかった北東アフリカ地域の、異なる生態環境のもとで、多様な経済生活や社会組織を営む諸民族の調査が進展し、資料が蓄積されたことがあげられる。また、本研究の主題とかかわる、第二の成果としては、民族間の相克と生成の研究には、近隣他民族との関係、国家と民族との緊張・協調関係、近代化や政府の政策、および市場経済の浸透などを踏まえた、多元的なアプローチが有効かつ必須であることが明らかになった点があげられる。こうした研究には、本研究のように、人類学、言語学、歴史学、地理学の専門家による集中的な個別調査と、学際的な比較研究が必要であると考えられる。北東アフリカは、民族間の、そして国家と民族との間の武力紛争が長年にわたって継続している地域として知られている。こうした問題を理解し、解決の糸口を見いだすためには、本学術研究の意義は大きいといえよう。
本研究の成果の一部はすでに、個々の研究分担者によって論文の形で発表されており、印刷中のものもいくつかある。また、これらとは別に、本研究全体の成果を論文集として編集し、公刊する計画も進行中である。

研究成果

• [文献書誌] 福井勝義: "民俗思考の可能性 再考-生態認識と多様化選択による生存戦略" 季刊民族学. 60号. 30-35 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 福井勝義: "民族はたえず生成し、変容する" 国家と民族--なぜ人々は争うのか?(学習研究社). 10-19 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 石毛直道,和仁皓明編,福井勝義: "スルマ系社会における乳の利用と象徴性-エチオピア・スーダン南部のウシ牧畜民" 乳利用の民族誌(中央法規出版). 87-106 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 福井勝義: "戦いと平準化機構-スーダン南部ナ-リムの家畜略奪の事例から" 社会人類学年報. 19. 1-38 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Fukui,K.& J.Markakis(eds.),福井勝義: "Conflict & Ethnic Interaction:The Mela & Their Neighbours" Ethnicity & Conflict in the Horn of Africa(James Currey,London). 33-47 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 須藤健一,杉島敬志編,松園万亀雄: "アマサンギアまたは性の共有-グシイにおける姦通と制裁" 性の民族誌(人文書院). 35-56 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 堀 信行: "ヌバ山地に谺するカミと人との交流" 季刊民族学. 60号. 6-19 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 大塚和夫: "マフディスト的「慣習」--北スーダンでのフィールドと文献調査から" オリエント. 35(2). 92-105 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 山内昌之編,大塚和夫: "アフリカの飢饉と戦争-スーダンを中心に" 二十一世紀の民族と国家(日本経済新聞社). 236-242 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 杉本尚次,中村泰三編著,大塚和夫: "北スーダン・アラブ人の空間認識-農地、村落、屋敷地" 変動する現代世界のなりたち--地域・民族・文化(晃洋書房). 101-116 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 稗田 乃: "A Grammatical Sketch of the Koegu Language" スワヒリ&アフリカ研究. 3号. 131-135 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 稗田 乃: "コエグの人と魚--環境認識の習得" 国立民族学博物館研究報告. 17(1). 97-119 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 稗田 乃: "コエグの人々の多言語使用について-民族間関係と言語" スワヒリ&アフリカ研究. 4号. 123-139 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 赤阪賢・日野舜也・宮本正興編・稗田乃: "言語の歴史と民族の歴史-ルオ諸語の話し手の場合" アフリカ研究-人・ことば・文化. 110-123 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 出口 顕: "野生の個人名-微分化と反復のあいだに" 思想. 813号. 111-141 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 出口 顕: "エチオピア西南部ディジの社会構成-サイ首長領の社会人類学的予備調査から" スワヒリ&アフリカ研究. 3号. 79-102 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 栗本英世: "辺境からみたエチオピア革命" 日本エチオピア協会会報. 28号. 1-6 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 栗本英世: "サバンナの狩猟的世界-ナイル系民族の生業再考" 季刊民族学. 63号. 110-122 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 栗本英世: "「ガ-ラ」とは何か-エチオピア高地とナイル河谷との交渉史をめぐって" スワヒリ&アフリカ研究. 4号. 103-122 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 赤阪賢・日野舜也・宮本正興編・栗本英世: "歴史のなかの民族誌-ナイル上流地域と外部勢力" アフリカ研究--人・ことば・文化(世界思想社). 184-197 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Fukui,K.& J.Markakis(eds.),栗本英世: "Civil War & Regional Conflicts:The Pari and Their Neighbours in south-eastern Sudan" Ethnicity & Conflict in the Horn of Africa(James Currey,London). 95-111 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 栗田禎子: "スーダン近現代史上における「脱部族化した黒人」の役割に関する予備的考察" 東京都立大学人文学報. 238号. 75-99 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 伊能武次編,栗田禎子: "スーダン・ジャズィーラ地域における農民運動の系譜-マフディー運動からゲジラ計画まで" 中東諸国における政治経済変動の諸相(アジア経済研究所). 159-198 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Fukui,K.& J.Markakis(eds.),栗田禎子: "The Social Bases of Regional movements in Sudan:1960s-1980s" Ethnicity & Conflict in the Horn of Africa(James Currey,London.). 202-216 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 福井勝義(共編著): "Ethnicity & Conflict in the Horn of Africa" James Currey,London, xiv+242 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi: "'Possibilities of the Folk Knowledge Reconsidered : Strategy of Survival in Cognition of Ecology and Diversified Selection'" Kikan Minzokugaku. no. 60. 30-35 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi: "'Genesis and Transformation of Ethnic Groups'" State and Ethnic Groups, Gakushu-kenkyu-sha.10-19 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi: "'Milk Utilization and Its Symbolism : A Case Study among Cattle Herders in Ethiopia and Southern Sudan'" Ethnography of Milk Utilization, Ishige, N. and H. Wani (eds.), Chuohouki-shuppan.87-106 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi: "'Warfare and Levelling Mechanism : A Case Study of Cattle Raiding of the Narim of Southern Sudan'" Shakaijinruigaku-nenpo. 19. 1-38 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi: "'Conflict and Ethnic Interaction : The Mela and Their Neighbours'" Ethnicity and Conflict in the Horn of Africa, Fukui,K. and J.Markakis (eds.), James Currey, London.1-38 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] MATSUZONO, Makio: "'Amasangia, or Joint Ownership of Gender : Adultery and Sanction among the Gusii'" Ethnography of Gender, Sudo,K. and T.Sugishima (eds.), Jinbun-shoin.35-56 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] HORI, Nobuyuki: "'Echoing Sound of Intercommunication between Man and Nature in the Nuba Mountains'" Kikanjinruigaku. no. 60. 30-35 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] OHTSUKA, Kazuo: "'Mahdistic "Custom" : From the Fieldwork in Northern Sudan and Literary Survey'" Orient. 35(2). 92-105 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] OHTSUKA, Kazuo: "'Famine and War in Africa : The Sudanese Case'" Ethnic Group and State in the 21st Century, Yamauchi, M. (ed.), Nihonkeizaishinbunsha.236-242 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] OHTSUKA, Kazuo: "'Space Cognition among the Northern Sudan Arabs : Cultivated Field, Village and Homestead'" Transforming Contemporary World, Sugimoto,H. and T.Nakamura (eds.), Koyo-shobo.101-116 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] HIEDA, Osamu: "'A Grammatical Sketch of the Koegu Language'" Journal of Swahili and African Studies. no. 3. 131-135 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] HIEDA, Osamu: "'Koegu People and Fish : Environmental Cognition and its Acquisition'" Bulletin of the National Museum of Ethnology. 17(1). 97-119 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] HIEDA, Osamu: "'Multilingualism in Koegu : Ethnic Relationship and Language'" Journal of Swahili and African Studies. no. 4. 123-139 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] HIEDA, Osamu: "'History of Languages and History of Ethnic Groups : A Case of Low Speakers'" African Studies : Peoples, Language and Culture, Akasaka,K., S.Hino and M.Miyamoto (eds.), Sekaishisosha. 184-197 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] DEGUCHI, Akira: "'Rethinking the Properness of Personal Names with Special Reference to the Dizi of Southwest Ethiopia'" Shisou. no. 813. 111-141 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] DEGUCHI, Akira: "'Is the Dizi a Hierarchical Society? : Chieftainship and Social Structure on the Sai Mountain'" Journal of Swahili and African Studies. no. 3. 79-102 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURIMOTO, Eisei: "'The Ethiopian Revolution seen from the Periphery'" Nihon-Ethiopia-kyokai-kaiho. no. 28. 1-6 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURIMOTO, Eisei: "'Hunting World of the Savanna : Rethinking Subsistence Economy of the Nilotic Peoples'" Kikanminzokugaku. no. 63. 110-122 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURIMOTO, Eisei: "'Who were "Gaala"? : Some Evidence on the Historical Contacts between the Ethiopian Highlands and the Nile Valley'" Journal of Swahili and African Studies. no. 4. 103-122 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURIMOTO, Eisei: "'Ethnography in History : The Upper Nile Region and Foreign Powers'" African Studies : Peoples, Language and Culture, Akasaka,K., S.Hino and M.Miyamoto (eds.), Sekaishisosha. 184-197 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURIMOTO, Eisei: "'Civil War and Regional Conflict : The Pari and Their Neighbours'" Ethnicity and Conflict in the Horn of Africa, Fukui,K. and J.Markakis (eds.), James Currey, London.95-111 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURITA, Yoshiko: "'The Role of 'De-tribalised' Africans in the Modern Sudanese History : A Preliminary Study'" Tokyo-toritsudaigaku-jinbun-gakuhou. no. 238. 75-99 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURITA, Yoshiko: "'History of the Peasant Movement in Gezira of Sudan : From Mahdism to the Gezira Scheme'" Aspects of Politico-Economic Changes in Middle-eastern Countries, Inou,T. (ed.), IDE.159-198 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] KURITA, Yoshiko: "'The Social Bases of Regional movements in Sudan : 1960s-1980s'" Ethnicity and Conflict in the Horn of Africa, Fukui,K. and J.Markakis (eds.), James Currey, London.202-216 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] FUKUI, Katsuyoshi(co-editor): James Currey, London.Ethnicity and Conflict in the Horn of Africa, xiv+242pp. (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より