研究課題
本年度の野生マウスの調査は、南、東南アジア地域の7カ国で行った。調査団しフィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、バングラデシュ、インド、パキスタンである。捕獲して、DNAサンプルにされた個体は約200匹であるが、形態学的分類、DNAの解析によって、そのうち約150匹が我々が研究対象とする野生マウス種Mus musculusであると判定された。野生マウスの生息場所に関する情報は少なく、M.musを採取出来なかった地域もある。例えば、ベトナム、タイを含むインドシナ半島で、数カ所、延べ5週間費やしたが、1匹も採取できなかった。採取されたDNAについて、Cas-E型内在性マウス白血病ウイルスの保有状況を解析した。キャリアーの地域分布は、フィリピン、インドネシア、バングラデシュ、インドにわたり、この地域でのキャリアーの割合は95%以上であった。本調査で、インドしパキスタンの国境付近がこのウイルス型の西側の境界であると推測された。サンプル数の増加に伴い、集団遺伝子学的解析も可能になった。今年度は、2つのCas-E型内在性ウイルス遺伝子座についてキャリアーの分布、遺伝子頻度を調べた。内在性マウス白血病ウイルスでありながら白血病抵抗性遺伝子として働くFv-4^rと、Frg・1と名付けた内在性ウイルス遺伝子座である。Fv-4^rは、前述のCas-E型内在性マウス白血病ウイルスの分布とほぼ一致していた。遺伝子頻度は、インドネシアの76%(29匹)が最低で、フィリピン(27匹)、バングラデシュ(48匹)、インド(44匹)では、98〜100%であった。Frg・1遺伝子は、遺伝子頻度は低いが、インドネシア(15%)とフィリピン(11%)に限定して存在し、インドネシアとフィリピンのマウスが、近縁集団であることを示唆する結果を得た。