研究概要 |
本共同研究は,CALLソフトウエアの移植に関連する問題の追求と,電子メール通信を取り込んだCALLシステムの開発を二本の柱に据えて二年間の研究を行った。 第一の柱については,東北大学(日本)とスターリング大学(連合王国)が互いに,これまで開発してきたCALLソフトウエアを提供しあい,移植の際の実際的な問題点を,教師や技術的サポートを行う立場の人間にアンケートや面接調査を行って洗い出した。さらに,CALL利用について,学習者が使用しているところを観察するだけでなく,教師と学習者の双方の意見をアンケートとインタビューで得て,あるべきCALLコースウエアデザインを考えた。なお,東北大学で開発した聴解教育支援システムについては,国際基督教大学,オーストラリア国立大学およびメルボルン大学にも提供し、移植に伴うシステム環境の問題を探った。そのうち,国際基督教大学からは試用した学習者と指導した教師の意見・評価も得ることができた。 移植に関しては,利用しやすく柔軟なデザインであることがもっとも重要な要素であることが確認された。利用のしやすさという点では,同一のハードウエアであっても開発環境と使用環境のシステムバ-ジョンの違いなど,システム環境の問題が大きいことが-当然のことながら-確認されたが,それ以外では,教師やエンジニアなどの学習者に使用させる側から見た場合と,実際に使って学ぶ学習者の側から見た場合で,利用のしやすさと柔軟性を構成する要素が異なっている。 まず,教師の立場からは,モジュール化された教材デザインなど,教授内容と提供される形が柔軟であるかどうかが大きい要素となる。この場合の柔軟さは,オーサリングシステムがあって教材内容がそれぞれの現場のニーズに合わせて変えられる,といった可変性を指すのではなく,自分の学習者に必要なところだけが選択的に使えるかどうか,つまり必要のない部分を回避できるかどうかにかかっている。オーサリングシステムが付いていて内容が変えられることももちろん望ましいのだが,プログラミングの知識の全くない教師にとっては,かえって不透明で利用しにくいものとなる可能性もある。これに対して,学習者調査によると,あれこれ手順を踏まなくてもすぐに練習に入れる簡便性と多少間違った使い方をしても止まったりしないという安心感が非常に大きな要素となってくる。学習者の立場からも,内容がどれほど魅力的でありどれだけ役に立つかが大前提であることは言うまでもないが,特に一人でコンピュータを動かして自律学習をするときには,操作上の不安のないことが重要である。 第二の目的である電子メール通信を取り込んだCALLシステムの開発については,まずその基礎となる日本語(漢字仮名混じり文)による通信パッケージの開発を行った。現在のコンピュータ通信では,ハードウエアや利用している通信ソフトウエアによって日本語表記が使えたり使えなかったりする。日本国内では日本語表記で通信できても,それを海外に送るとなると国際的なネットワークにのるように文字情報をコード化する段階で,その国特有の制御記号に漢字コードが抵触したりする問題も生じる。そこで,通信しあう者同士がハイパーカード環境にあれば難しいことを考えなくても通信可能なように,通信メッセージをパッケージに閉じ込める「漢字EMailer」ソフトを開発した。いくつかのメールをまとめて「メールバッグ」とよばれるパッケージに入れ,到着後はそれをほどいて配る管理者用ソフトウエアも完成している。これを利用してスターリング大学の日本語学習者と東北大学の日本人学生の間で日本語によるやり取りを行う計画である。日本語学習タスクにこの通信を組み込むことによって,機械からのフィードバックだけでなく人間的なコミュニケーションを取り込んだCALL開発が可能になる。「漢字EMailer」は学生同士が個人ベースで行う通信と違って学習記録が採れるので,進歩の状況やCALL利用の効果を見ることもできる。現在は文字情報だけで試験通信をしている段階だが,グラフィックや音声もこの原理でパッケージ化することが可能なので,マルチメディアを利用した立体的な通信CALL開発にも有効である。
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