研究概要 |
オーストラリア国ビクトリア州の褐炭は膨大な埋蔵量の資源であるが,高い含水率と高い酸素含有率のために利用が制約されている。本共同研究ではその化学的特性を明らかにして,褐炭の特性を生かした新しい利用技術を開発することを眼目とし,構造,反応性などの基礎的諸性質,水分や溶媒との相互作用など多角的に研究を進めた。 持田,坂西,Jacksonらは褐炭の硫酸処理と引く続くイオン交換法で鉄やスズを担持して高分散液化触媒を調製する方法を開発した。また,褐炭の脱鉱物処理及び乾燥前後の性状・構造変化を調べ,褐炭のCO/H_2O条件下において高活性を発揮する触媒(NaAlO_2)は安価であり,350℃前後においてCO/H_2O条件下で効果的にWater-Shift反応を進行させ,褐炭の解重合に対して高活性を示すことを確認した。 一方真田,Jacksonらは電荷移動錯体をモデルとする石炭の構造と反応性の研究を展開した。その結果,^1H-NMR固体法で得られるスピン-格子緩和時間のヨウ素添加効果が提供された試料の間で著しく異なったが,これはアスファルテンの反応性の相違と対応づけられる。この点を明確にするために試料のヘキサン抽出試験とヘキサン可溶分中の芳香族環構造の分布を高速液体クロマトグラフィにて検討した結果,両者にはヘキサン抽出量に相違のないことを明かにした。さらにCCVのAllardiceとも共同して褐炭の脱水過程のシミュレーションを試み,脱水,水の再吸着プロセスは室温においても可逆的に行い得ないこと,通常の熱的乾燥法による脱水は褐炭の構造を大きく変え,反応性に影響を及ぼすことが判明した。これらの基礎研究は工業プロセス化が検討されている水熱乾燥法(Hydrothermal Dewatering Process)の設計に対して基礎的知見となることが期待される。 飯野,鷹觜,Mainwaringらは亜瀝青炭のCollie炭(西オーストラリア),褐炭のLeigh Creek炭(南オーストラリア)と,Loy Yang炭(ビクトリア)の種々の溶媒における溶媒抽出率,溶媒膨潤値を測定した。またLoyYang炭とN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)のサスペンジョンを作製し,レオメータを用いて粘弾性の測定を行った。その結果水の場合にLoy Yang炭の膨潤値が他の石炭に比べて小さく,Loy Yang炭が構造内に多くの水分を有しているためであると考えられること,膨潤値の比較ではピリジン,NMPを用いた時にCollie炭,Loy Yang炭で2以上の高い膨潤値を与えることが分かった。以上の結果から,Loy Yang褐炭は他のオーストラリア亜瀝青炭に比べて多くの溶媒可溶成分を有し,また極性溶媒と相互作用する極性置換基を多く含む構造からなるものと考えた。 西山,尾崎,Perry,Allardiceらは褐炭上のカルボキシル基にイオン交換法により導入した鉄が高分散であることに着目し,このような鉄により褐炭の低温炭素化はどの様に修飾されるか,そして微分散鉄の担体として鉄交換褐炭をPVDCの炭素化に用いた場合,炭素化物の物性はどう変化するかを,主に炭素化度と電気伝導度の観点から検討した。その結果,鉄は表面官能基の分解を促進することにより,電気伝導度にして最大約2桁に相当する炭素化の進行を促すことを見出した。今後,豊富に存在する褐炭上の表面官能基を用いた炭素化の制御による新規な材料の開発が期待される。 招へい者Mainwaring教授は褐炭のコロイド性,ゲルの電解質特性,粘弾性など我国研究者の中では不十分であった視点からの有益な知見を提供し,褐炭の特性の理解に大きな貢献をなした。またもう一人の招へい者Guy氏は東北大学グループと共同で褐炭ブリケットの性状に対する溶媒効果を解明し,メチル化による疎水化がブリケットの安定化につながることを明らかにし,水との相互作用の定量的な解析に示差熱分析法が有用であることなどの知見を得,今後の展開の大きな足がかりが得られた。 以上のように本共同研究の結果として,褐炭の構造,巨視的物性に結びつく水や溶媒との相互作用が解明され,今後の高度利用に結びつく十分な成果が得られたものと考えている。
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