研究概要 |
本共同研究の目的はこれまで分子細胞遺伝学的解析が殆どなされていない鳥類のZ,W性染色体のDNA配列、遺伝子機能を分子レベルで解析し、さらに染色体上の局在部位を出来るだけ精密にマッピングすることである。このため、本研究ではニワトリを材料として、研究代表者(水野)のグループがZ,W染色体にそれぞれ特異的なゲノムライブラリーを作製し、これらから得られた興味深いクローンの塩基配列レベルの解析を行った。さらに、染色体が著しく伸長し、精密なマッピングに適すると考えられる雌の減数分裂前期のランプブラッシ染色体を研究分担者(ナンシー ハッチソン博士)の研究室で多数分離し、この染色体標本に対する蛍光insituハイブリダイゼーション(FISH)を共同で行った。本年度はこれらの成果をプラハにおける国際家禽ゲノムマッピングワークショップ(平成6年7月)および長柄(千葉県)における染色体構造・機能に関する国際ワークショップ(平成6年11月)で発表した。 以下に研究成果の概要を記す。 1)Z染色体の解析:雌ニワトリの繊維芽細胞から得られた有糸分裂中期の染色体セットに対してアルゴンイオンレーザーのミクロビーム照射を行って1本のZ染色体の1端部を残して他の染色体を焼却した。残ったZ染色体端部からDNAの微量抽出、シングルユニークプライマーによるPCR増幅を行って、λgt10ベクターに結合してゲノムライブラリーを作製した(東海大学医学部池田穣衛教授との共同研究)。このライブラリーから100クローンをランダムに選んで、混合プローブとしてFISHを行ったところZ染色体のヘテロクロマチン末端にハイブリッド形成が認められた。そこで雌ニワトリのλGEM12ゲノミックライブラリーをこの混合プローブを用いて検索して、約13kbのゲノム断片を含むpCHZTH8クローンを得た。このクローンとW染色体のXhoIファミリー反復DNAクローンをプローブとしてランプブラッシZ-W2価染色体にFISHを行った結果、pCHZTH8はZ染色体端部ヘテロクロマチンを構成する短ループ領域と末端の大きなリボン状ループ(TBL)に含まれる配列であること、Z,W染色体は減数分裂前期に両染色体の非ヘテロクロマチン末端で対合することが明らかになった。pCHZTH8の配列は一部にキジ目鳥類に保存されている領域を含むが大部分はニワトリを含むGallus属に固有で、進化上新しく増幅した配列であることが分かった。これらの配列中には明瞭な内部反復単位は認められず、マクロサテライトの特徴を示すものであった。 2)W染色体の解析:上記と同様の方法でニワトリの1本のW染色体からゲノムライブラリーを作製した。先ず、プラークハイブリダイゼーションによりW染色体のXhoIおよびEcoRIファミリー反復配列プローブと反応しないクローンを約300個選んだ。次に、これらのそれぞれをプローブとして雌、雄ニワトリのゲノムDNAに対してスロットブロットハイブリダイゼーションを行い、雌特有の非反復配列と予想されるシグナルを与えるクローンを選別した。このうちの2クローン(CW01,CW50)を用いて雌ニワトリの全ゲノムライブラリーを検索して、それぞれ約25kbをカバーするクローン群を得た。これらのクローンをプローブとしてランプブラッシZ-W2価染色体に対してFISHを行い、それぞれの領域のW染色体上の局在部位をおおよそ決定した。ともにW染色体内部の非反復配列領域であることが推定された。CW50を含む約25kb領域中にはCpGアイランド(遺伝子上流によく存在するCpGに富み、メチル化修飾を受けていない部分)が存在した。CW01領域中には広く鳥類のW染色体中に保存されている配列部位が見い出された。現在これらの特徴的な配列近傍についてエキソントラップ法による推定エキソンの検索を進めている。CW01領域中の進化的に保存された配列は広く鳥類の性判別に利用出来る有用なプローブであることが分かった。
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