研究課題/領域番号 |
04044068
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大島 泰郎 東京工業大学, 生命理工学部, 教授 (60167301)
|
研究分担者 |
有坂 文雄 東京工業大学, 生命理工学部, 助教授 (80133768)
田中 信夫 東京工業大学, 生命理工学部, 教授 (50032024)
勝部 幸輝 大阪大学, 蛋白質研究所, 名誉教授
ZAVODSZKY Pe ハンガリー科学アカデミー研究所, 教授
PETSKO Grego Brandeis大学, 化学科, 教授
|
研究期間 (年度) |
1992 – 1994
|
キーワード | 好熱菌 / 安定性 / 分子設計 / 進化工学 / 酵素安定化 / 超好熱菌 |
研究概要 |
高度好熱菌の生産する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをモデル酵素として選び、酵素蛋白質の構造と熱安定性、および触媒機能の関係を日米欧の各研究者がそれぞれの特技を発揮して研究し、その成果を持ちよって総合的に解釈する異分野間共同研究を企画した。日本側は遺伝子工学を駆使した酵素蛋白質の大量調整、各種変異体の設計と製作、それらの精製、およびX線構造解析を分担した。日本側が作成した酵素タンパク質、その変異体は海外共同研究者に希望に応じ配布した。アメリカ側はX線構造解析、とくに各種の温度域におけるゆらぎの測定を、ハンガリーはH-D交換による構造変化の測定を担当した。 本年度の主要な成果は次の通りである。 1 実験室内進化を利用して安定化した変異体を取得出来るようシステムを考案した。この系を用いて、好熱菌と常温菌遺伝子の人工的な組み換えにより作られた安定性の劣るキメラ酵素の安定化変異体を得た。そのうちの一つは172位のアラニンをバリンに置換するもので、三次元構造の解析の結果、もともとアラニンの側鎖の周辺にあった僅かな空隙をより大きな側鎖に置換することで埋めるものと解釈された。しかし、この仮説を証明するために作成した172位のアラニンをロイシンやイソロイシンに置換した変異体は予期に反してもとの野性型酵素より安定であった。この変異体の三次元構造を解析し、安定性はドメイン構造を大きく変化させることに起因していることを明らかにした。これらの結果は、機能を喪失することなくタンパク質の熱物性の改変を行うには進化分子工学的手法が有効であることを強く示唆している。 2 上記の結果は、高度好熱菌酵素と言えどもなお人為的に安定化しうる余地を残していることを示唆した。この考えに基づいて、変異体を設計、製作し、高度好熱菌が作る熱安定な3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼを更に安定化することに成功した。すなわち、高度好熱菌の酵素の172位にロイシンを導入した結果、変性温度はさらに約10度上昇することを見出した。 3 理論設計による安定化変異体として、揺らぎの大きな部位である残基110位に始まるループ部分に着目した。このループの安定性について考察し、三つの要素を推定した。第一はプロリンによる主鎖の安定化、第二はグリシンによるストレスの解除、そして第三はループ内部の水素結合である。これらのうちどれが重要かを調べるため、それぞれ単独および組み合わせの変異体の全てを設計、製作した。その結果、従来の考えとは異なりプロリンによる主鎖の固定は安定性にはほとんど寄与がなく、ループ内の水素結合とグリシンによるストレスの解除の両方が組み合わされたときのみタンパク質の安定化が見られた。各単独では全く効果がない。この結果は揺らぎを測定することで、理論的に安定化設計が可能であることを示し、本研究計画に見られるような異分野間共同研究が重要であることを証明している。 4 従来の試料以上に安定性の高い超好熱性古細菌の生産する3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼの大量調整の系を作成し、酵素の結晶化に成功した。すなわち、古細菌に分類されるスルフォロバス属の超好熱菌から3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードしている遺伝子をクローニングし、その大腸菌内の高発現ベクターを開発した。精製した酵素タンパク質とその結晶は共同研究者に配付し、構造解析を開始した。本酵素の一次配列は高度好熱菌の相当する酵素のアミノ酸配列とかなり異なっており、安定性の解析には新たな手掛かりを与えるものと期待される。
|