平成4、5年度の成果をふまえて平成6年度におこなった調査作業は、つぎの5項目にまとめられる。このうち項目1は4-8月に武内が日本で完了。2-5は、武内が9-10月に大英図書館を訪れ、Shaw氏と共同でおこなった。 1.これまでに見いだしたすべての文書の網羅的なリストを作成。そのすべてに新たな統一カタログ番号(Takeuchi Catalogue Number)を付与した。大英図書館における整理番号(requisition number)をもたない文書には、Or15000番号をあらたに与えた。 2.大英図書館において、すべての文書をリストと照合しつつ最終的なチェックをし、調査・記述の不十分な文書については再調査をおこなった。 3.今回新たなこころみとして、大英博物館修復部の協力を得て、汚損等で判読が困難な文書に、infra-redなどの機器をもちいていろいろな波長の光をあてる解析をおこなった。その結果、裸眼では解読不可能なテキストを一部判読することができた。これは本研究にとどまらず今後の写本研究にとって新たな可能性を開くものである。 4.文書におされた印章について大英博物館所蔵の印と照合し、そのいくつかが合致することが判明した。これは中央アジア・チベットにおける初期の印章使用についてのおおきな発見である。成果の一部は文部省出版助成を得て1995年2月に出版した英文モノグラフのなかで発表した。 5.写本の修復状態と今後の保存方法について図書館修復部の専門家と協議のうえ最終的な方針と細目を決定した。 1-5の作業の結果、本研究の目的である、スタイン蒐集古チベット語文書の1)網羅的なリストアップ、2)解読・解析作業、3)補修作業のうち、1)と2)は完了、3)についても最終作業段階に入った。これによって、従来不明であったスタイン蒐集トルキスタン出土の古チベット語紙文書の全貌がはじめてあきらかになった。すなわち、これまで公刊された200点余りの文書のほかに500点ちかい文書があること、またその中に歴史学・言語学資料として重要なデータが含まれていることが判明した。 以上の結果をふまえ、本研究の最終成果であるカタログの作成にむけて、代表者武内と大英図書館は以下の方針をとることを相互に確認した。 1.成果の概要を武内が雑誌論文として1995年に発表し(研究発表[雑誌論文]参照)、他の研究者の意見・批判を持つ。 2.カタログの最終原稿(解題・校訂テキスト・索引)を武内が1996年末までに完成する。 3.カタログとあわせ出版するため、すべての文書を大英図書館が新たに写真撮影し、1996年8月までに武内に提供する。 4.写真撮影と平行して、大英図書館は写本の補修作業を武内の指示に従い進める。 5.カタログと文書図録をあわせ2巻本として1997年に出版することとし、武内、大英図書館双方で準備を進める。
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