研究課題
既に、我々は遺伝子標的組込みを利用して、マウスES細胞のトランスサイレチン(ttr)遺伝子に挿入変異を導入し、この変異ES株を用いてキメラマウス、さらにttr遺伝子の一方あるいは双方のアレルに挿入変異をもつマウス株を得ている。そして双方のアレルに挿入変異を持つマウスは無TTR血症であることを見出しているので、このマウスを用いてTTR欠損が甲状線ホルモンとビタミンAの代謝におよぼす影響について解析した。その結果、血清中のレチノール、レチノール結合タンパン質、および甲状腺ホルモン(T_4)のレベルが、変異マウスにおいて有意に低下している事が明らかになった。さらに本年度は、マウス血清アミロイドP成分(sap)遺伝子に挿入変異を導入し、SAP欠損マウス株の作製を目指した。SAPは、全てのアミロイドーシスで沈着するアミロイドの共通構成成分である。その生理的機能やアミロイド沈着に果たす役割は不明であり、SAP欠損株の作製により、これらを明らかにする手がかりを得る事が可能と考えた。そこで、マウスES細胞のsap遺伝子に挿入変異を導入するために、我々が単離して全塩基配列を決定してあったC3H/Heマウスsap遺伝子を用いて置換ベクターを構築した。置換ベクターは、5′flanking region(約2kb)及び3′flanking region(約2.5kb)を含む全sap遺伝子の第2エクソンに、ES細胞で発現するMCプロモーターに接続したヘルペスtk遺伝子を両端に結合して作製した。この置換ベクターをマウスES細胞に導入し、G418とgancyclovirに耐性となった240ヶのクローンについてsap遺伝子に挿入変異をもつものをサザンブロット法及びPCR法で選択したが、目的とする挿入変異株は得られなかった。