研究分担者 |
SUK Poul Oh ハーバード大学, 医学部, 研究員
SUNEEL Apte ハーバード大学, 医学部, 研究員
BJORN Olsen ハーバード大学, 医学部, 教授
吉岡 秀克 岡山大学, 医学部, 助教授 (00222430)
村垣 泰光 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (40190904)
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研究概要 |
本研究の目的はEC(Endothelial Cell)コラーゲンとしてタンパク化学からその存在が同定されていたVIII型コラーゲンの構造、これをコードする遺伝子の構造と培養内皮細胞による発現様式、さらにはこのVIII型コラーゲンの生物学的な機能を調べることにある。培養内皮細胞を用いたタンパク化学と抗体を用いた方法によって、SageらはECコラーゲンという新しいコラーゲン鎖を同定していたが、このコラーゲンポリペプチドについてはその全貌が明らかになっていなかった。私どもはこれまで、家兎、ヒトについてα1(VIII)とα2(VIII)鎖をクローニングし、アミノ酸一次構造を明らかにするとともに、α1(VIII)遺伝子全長を単離し、その性質を調べた。これらの遺伝子COL8A1とCOL4A2は、各々ヒト染色体3番q11.1-q13.2および1番p32.3-p34.3に存在することがわかった。 ヒトVIII型コラーゲンとホモロジーのあるマウスα1(VIII)鎖をコードするcDNAおよび遺伝子を単離してマウスα1(VIII)転写産物の解析を行った。主に二種の転写産物が存在するが、これは3′側の非転写部分のサイズが異なるだけで、α1(VIII)ポリペプチドをコードする部分には差がないことがわかった。さらに各臓器から得たRNAを用いたノザンブロットハイブリダイゼーションを行うことによってα1(VIII)遺伝子の臓器における発現をみた。その結果、頭蓋冠、眼、皮膚において高い発現量がみられた。またin situハイブリダイゼーション法によってこれらの臓器のうちどの細胞から発現されるかをみたところ、皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、角膜内皮細胞、レンズ上皮細胞および軟骨や頭蓋骨周囲の間葉系細胞、脳周囲の髄膜に発現されていることがわかった。 血管系における内皮平滑筋細胞由来のマトリックス構築の研究の中で、培養ヒト大動脈内皮細胞由来RNAよりα1(VIII)mRNAおよびα2(VIII)RNAを検出することができた。これらのmRNAサイズは上述した家兎角膜内皮細胞由来のRNA中のα1(VIII)mRNAのものと同じであった。さらにこの培養ヒト大動脈内皮細胞はα1(IV),α2(VI),α5(IV),α6(IV)の他α2(I),α1(III),α2(V)等のコラーゲンmRANを産生していることがわかった。さらに平滑筋細胞でもα1(VIII)mRNAが大量に産生していることが判明した。 VIII型コラーゲン遺伝子がかなり広範囲に分布しているらしいことがわかってきているが、発生や分化の過程でどの時期にいつ、どのような種類の細胞で発現されるかをトランスジェーニックマウスを用いて検討している。方法としては、VIII型コラーゲン遺伝子発現を制御していると思われる5′側上流域をクローニングして、この領域からの遺伝子発現をレポーター遺伝子としてLacZ遺伝子を用いて行っている。トランスジェーニック作成の技術に関しては、種々の方法を試したところ、現在の方法を用いて特に問題なく目的の遺伝子が導入されているようである。しかしいくつかのトランスジェーニックマウスの系統が得られているが、その系統によってレポーター遺伝子の発現パターンが異なっているため、統一した見解が得られていない。現在ある長さの5′側上流域をVIII型コラーゲン遺伝子の発現に必須の領域と考えて実験を行っているが、このようなVIII型コラーゲン遺伝子の発現に必須の領域に加えて、VIII型コラーゲン遺伝子の発現に付加的に必要な塩基配列、もしくはタンパク因子が必要かも知れないので、そのような方向からの実験の必要性がでてきている。同様の実験結果は、他の強烈な発現様式を示す遺伝子のプロモーター部分を用いたトランスジェーニックマウスでもみられており、導入する遺伝子のプロモーター部位の性質を検索するのに用いられる。 さらには、VIII型コラーゲン遺伝子の中に外来の遺伝子を挿入し、VIII型コラーゲン遺伝子の発現を停止したknock out miceを作製中であり、この操作で生まれてくるマウスになんらかの変化(例えば眼球や血管系の発生が抑制されたりするかも知れない)がくれば、胎児発生の課程におけるVIII型コラーゲン遺伝子の生物学的な機能が推測することが可能になってくると思われる。このプロジェクトも現在進行中のものである。
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