研究概要 |
研究成果概要 本研究の目的は,トリクロロエチレン,トルエンなどの揮発性有毒有機化合物および窒素化合物の土壌内における挙動を解析し,数理モデル化によってこれらの物質の運命を予測することにある.本年度に得られた成果を研究実施計画に基づいて要約する. 1.マイクロカラム法による遅延係数の直接測定 昨年度開発したガスクロマトグラフによるマイクロカラム法を用いて,トリクロロエタンの遅延係数を測定し,流速,温度,土壌の粒径,有機物量などの諸因子の遅延係数に与える影響を明らかにした.この方法は,内径4mm,長さ1.5mのマイクロカラムを用いて物質の遅延係数をFlow型で簡便に測定する方法で,同時にトランスポート係数(流速,分散係数)を同定することができる.昨年度は,ガスクロマトグラフ用充填材を用いたが,本年度は実際に土壌(マサ土)を用いて実験を行った. 実験条件は次の通りである.温度:30〜60℃,流速:80〜200cm/min,マサ土の粒径:75〜425μm,有機物量:3〜9%. なお土壌水分の遅延係数に与える影響についてはマイクロカラム法による測定が困難なため,装置の改良を検討中である. 本研究で得られた結果は以下の通りである. (1)遅延係数の値は,温度の上昇とともに減少することが確認された.また流速の増加とともにわずかに減少する傾向がみられた. (2)土壌内中の有機物量は遅延係数に影響を与えることが確認されたが,有機物の土壌中での存在形態の違いにより逆の相関が得られた. 2.土壌内拡散と吸着に関する実験的研究 本年度は土壌カラム実験により,テトラクロロエチレン(TCE)とベンゼンの2種類の蒸気が共存する場合の土壌内拡散移動について調べた.これらの蒸気は土壌カラムの一端におかれた混合液体から,他端へ向かって拡散する.他端には常に清浄空気を送り,これらの物質の濃度をゼロに保ってある. 得られた結果は次の通りである. (1)シミュレーションによって得られた多成分系定常状態での質量フラックス密度はTCEベンゼンについてFickの法則による推定値よりもそれぞれ6.7,5.5%高い値を示した.実験からもほぼ同様の値が得られ,理論から予想された多成分質量フラックス密度が存在することが明らかになった (2)Fickの拡散法則と多成分系非線形吸着等温式を用いた非定常モデルは単成分線形吸着等温式に基づいたモデルよりもより正確に実測値を予測することができた.後者のモデルはTCE,ベンゼン共に蒸気の濃度を低く推定する. 3.モデル化に関する研究 (1)土粒子内間隙への物質移動モデル 土粒子内間隙あるいは団粒内部への物質移動を考慮した新しいモデルを提案し,マサ土を用いた土壌カラム実験の実測データによりモデルの評価をした.土粒子内間隙での溶質濃度のシミュレーションの結果から,特に低濃度でも有毒な汚染物質の場合には,粒子内間隙からの再流出の影響は大きいことが明らかになった.この研究成果の一部については1993年11月のアメリカ土壌科学会で発表を行っている. (2)スクリーニングモデル 土壌内における毒性有機化合物の1次元非定常移動と揮発に関するスクリーニングモデル(RIOCATS)を提案した.このモデルは化学物質の環境への影響への相対的な影響を評価するためのもので,単純で正確であり,かつプログラミングも容易である.本研究では18種類の揮発性有機化合物についての環境への影響を評価し,従来のモデルとの比較を行った. その他,湛水状態における鉛直浸透実験によって吸水度を推定する新しい簡便な方法を提案した.また,溶質移動のシュミレーションにおいて数値分散(2次の打ち切り誤差)は無視できない計算誤差であるが,この数値分散を除くための一般的な補正項を,もっとも広く用いられている4つの差分スキームにたいして誘導した.この補正項は一定の,あるいは変化する距離差分間隔について適用できる. 4.土壌内硝化・脱窒過程について 昨年度,提案した逆問題モデルを用いて,窒素負荷変動を伴う場合の土壌カラム実験データをもとに,硝化・脱窒速度の応答を調べた.その結果硝化・脱窒速度は,窒素供給濃度の増加とともに,ステップ応答的に増大することが明らかになった.
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